改訂新版 世界大百科事典 「若き日の信長」の意味・わかりやすい解説
若き日の信長 (わかきひののぶなが)
戯曲。3幕4場。大仏次郎作。1952年10月東京歌舞伎座初演。おもな配役は,織田信長を9世市川海老蔵(のちの11世市川団十郎),平手中務を2世尾上松緑,弥生を7世尾上梅幸,木下藤吉郎を3世市川左団次ほか。信長は父の三回忌法要の日だというのに寺に近い丘の上で村の子供らと柿を食べたりして遊んでいる。織田家の人質となっている山口左馬之助の娘弥生はそんな信長をひそかに慕っているが,今川の間者覚円と今川方に内通している林美作守の密談を立聞きする。覚円は弥生を殺そうとするが,弥生に気のある美作守はそれを止める。信長の守護役の平手中務は信長が法要に出席しないことなどに責任を感じ,死をもって諫めようと3人の息子に後事を託して切腹する。駆けつけた信長は中務の遺体に向かって,自分の苦しみを本当に知ってくれなかったと絶叫する。おりから山口左馬之助が寝返り,今川勢が攻め入ってきたという知らせが入る。城中では評議が開かれ,どう対処するかが決しない。信長は意を決し木下藤吉郎に命じて出陣の用意をさせる。そして弥生に鼓をうたせ幸若舞の《敦盛》を舞い桶狭間へ出陣する。作者が11世団十郎のために書き下ろした最初の作品であり,団十郎の魅力を十分に引き出すのに成功した。以後この両者の好提携を生むきっかけともなった。晩秋,冬,初夏という季節感にあふれ,多彩な人間像をちりばめながら,終局へ盛り上げていく手法はすぐれている。
執筆者:林 京平
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報