小説家。明治30年10月9日横浜生まれ。本名野尻(のじり)清彦。長兄に野尻抱影(ほうえい)がいる。東京府立第一中学校から旧制第一高等学校を経て東京帝国大学政治学科に学ぶ。大正デモクラシーの洗礼を受け、それ以後リベラルな立場をとる。一高在学中に『一高ロマンス』(1917)を出版。大学卒業後、外務省条約局に勤めたが、関東大震災を機に文筆に専念。鎌倉、長谷(はせ)大仏裏に住んでいたため大仏の筆名を用いる。1924年(大正13)『鬼面の老女』を皮切りに『鞍馬天狗(くらまてんぐ)』の連作を執筆、26年に初めての新聞小説である『照る日くもる日』を『大阪朝日新聞』に連載、27~28年(昭和2~3)『東京日日新聞』に執筆した『赤穂浪士(あこうろうし)』で大衆文壇の花形となった。時代物に『由比(ゆい)正雪』(1930)、『乞食(こじき)大将』(1944~46)などがある。31年に東京・大阪の両『朝日新聞』に連載した『白い姉』以後、風俗小説の分野でも活躍。『霧笛』(1933)など開化物を経て第二次世界大戦後の『帰郷』(1948。芸術院賞)に大成された。またフランス第三共和政下の政治的諸事件を扱った『ドレフュス事件』(1930)、『ブゥランジェ将軍の悲劇』(1935)、『パナマ事件』(1960)や、パリ・コミューンを描いた『パリ燃ゆ』(1961~63)があり、幕末から明治へかけての変革を実証的にとらえた『天皇の世紀』(1967~73。未完)も優れた業績である。児童文学、戯曲、随想なども多く、市民的良識を感じさせる。60年(昭和35)芸術院会員。64年文化勲章受章。昭和48年4月30日没。横浜に大仏次郎記念館がある。なお、没後、優れた著作に与えられる大仏次郎賞が設けられた(1973創設、翌年第1回)。
[尾崎秀樹]
『『大仏次郎自選集 現代小説』全11巻(1972~73・朝日新聞社)』▽『『大仏次郎随筆全集』全三巻(1973~74・朝日新聞社)』▽『『大仏次郎時代小説全集』全24巻(1975~77・朝日新聞社)』▽『『大仏次郎戯曲全集』全一巻(1977・朝日新聞社)』
大正・昭和期の小説家
出典 日外アソシエーツ「20世紀日本人名事典」(2004年刊)20世紀日本人名事典について 情報
小説家。横浜生れ。本名野尻清彦。英文学者の野尻抱影は長兄。東京帝大法学部政治学科卒業。1917年,高校在学中に《一高ロマンス》を出版,大学卒業前後にロマン・ロランの反戦文学作品を3冊翻訳出版するなど,青年時代から文学活動を始めた。関東大震災を契機として勤務先の外務省を退いて作家生活に入り,24年に大衆文芸誌《ポケット》に連載を始めた《鞍馬天狗》によって認められた。このあと,《照る日くもる日》(1926-27),《赤穂浪士》(1927-28),《ごろつき船》などの新聞小説が続いた。いずれも江戸時代に舞台を借りて現代人の自由,変革への意欲を間接的に表現した時代小説で,娯楽読物でありながら,新しい社会層であるサラリーマン階層の知的欲求に応ずる内容を有していた。さらに《ドレフュス事件》(1930)によってノンフィクション,《白い姉》(1931),《雪崩》(1936)によって現代小説,《霧笛》(1933)によって開化物と,新分野が開拓されていった。戦後の円熟期には,現代小説《帰郷》(1949)による芸術院賞受賞,芸術院入会,文化勲章受章(1964)と栄誉が続いた。戦後の作品には,戦前からの3系列のほか《若き日の信長》(1952)など新作歌舞伎,《小さい隅》(1958-72)ほかの随筆が加わる。晩年には,記念碑的パリ・コミューン史《パリ燃ゆ》(1961-64),ついで近代日本の開幕を叙述した《天皇の世紀》(1967-73)がある。
執筆者:村上 光彦
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1897.10.9~1973.4.30
大正・昭和期の小説家。本名野尻清彦(のじりきよひこ)。神奈川県出身。星の研究家野尻抱影(ほうえい)の弟。東大卒。女学校教諭・外務省勤務をへて作家生活に入る。国民的英雄を造形した連作「鞍馬天狗」(1924~59),市民精神をうたう西洋史伝小説「ドレフュス事件」,戦後への批判をこめた現代小説「帰郷」など,知性と良心に裏づけられた多面的な創作は,大衆文学の品性を高めた。絶筆は史伝「天皇の世紀」。文化勲章受章。
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…大仏次郎の連作時代小説で,短編《鬼面の老女》(1924)から《西海道中記》(1959)まで36編の作品をさす。いずれも鞍馬天狗を主人公としている。…
…こうしてナショナル・トラストは,イギリスにおける民間最大の土地保有機関となっている。 日本でも1960年代から大仏次郎らによってナショナル・トラストが紹介されたが,実際上はそれに匹敵する大規模な組織はいまだ生まれていない。北海道斜里郡斜里町の100m2運動,和歌山県田辺市天神崎の市民地主運動をはじめ,多くのなぎさ買収計画や町並保存計画等が知られる。…
…3幕4場。大仏次郎作。1952年10月東京歌舞伎座初演。…
※「大仏次郎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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