改訂新版 世界大百科事典 「荒魂」の意味・わかりやすい解説
荒魂 (あらみたま)
物事に対して激しく活動する神霊をいい,和魂(にぎみたま)に対して称する。古く日本人は神の霊魂の作用および徳用を異なる作用を持つ霊魂の複合によると考えた。すなわち,静止的な通常の状態における神霊の作用および徳用を〈和魂〉とし,活動的で勇猛,剛健,ある意味では常態をこえるような荒々しい状態における作用および徳用を〈荒魂〉と考えた。ニギとアラは対語で,〈和妙(にぎたえ)〉〈荒妙(あらたえ)〉(《延喜式》),〈毛麤物(けのあらもの)〉〈毛和物(けのにぎもの)〉(《古事記》)などの用例がある。《古事記》《日本書紀》には,崇神天皇のとき,疫病のために多くの民が死んだのは大物主神のたたりであるとみえ,それは〈荒魂〉のたたりであると説かれている。《日本書紀》では,神功(じんぐう)皇后の〈三韓征伐〉に際して,〈住吉三神の和魂は王身(みついで)に従って寿命(みいのち)を守り,荒魂は先鋒(さき)となって師船(みいくさのふね)を導き守ろうとした〉とあり,住吉大社と長門住吉神社には住吉三神の荒魂がまつられている。ほかに荒魂をまつっている例としては,伊勢の皇大神宮(内宮)の別宮荒祭宮(あらまつりのみや)には天照大神の荒魂が,豊受大神宮(外宮)の別宮多賀宮(たがのみや)には豊受大神の荒魂がそれぞれまつられている。なお,神の霊魂の作用および徳用を言い表したものには,ほかにも〈奇魂(くしみたま)〉〈幸魂(さきみたま)〉などがある。奇魂とはすべてのことを知りわきまえしむる魂で,幸魂とは幸いをもたらす恵みの魂で,ともに和魂から分化したものと考えられる。
執筆者:大井 鋼悦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報