日本大百科全書(ニッポニカ) 「莫言」の意味・わかりやすい解説
莫言
ばくげん / モーイエン
(1955― )
中国の作家。山東省出身。本名は管謨業(かんぼぎょう)。莫言は「言う莫(なか)れ」の意味で、子どものころはおしゃべりだったため、母親によく注意されたことばをペンネームにした。貧しい農家に生まれ、授業料を払えずに小学校を中退したが、羊の放牧をしながら多くの本を読んでいたという。1976年に人民解放軍に入隊し、軍の図書室の管理員などをしながら執筆活動を開始。1986年に発表した、故郷を舞台に日中戦争を描いた『赤い高粱(こうりゃん)』が大ヒットし、作家として注目された。その後、現実と幻想を織り交ぜたマジックリアリズムとよばれる手法で、次々と話題作を発表。「性描写が露骨だ」などの理由で一時発禁処分を受けた『豊乳肥臀(ほうにゅうひでん)』や、一人っ子政策の問題点を指摘する『蛙鳴(あめい)』(中国語原題『蛙』)など、中国当局のタブーに挑戦する作品も多かった。軍隊から退役後、北京(ペキン)師範大学で修士号を取得した。2012年に「幻想的なリアリズムによって民話、歴史、現代を融合させた」ことなどを理由に、中国籍の作家として初めてノーベル文学賞を受賞した。受賞の知らせを受けた記者会見で、服役中のノーベル平和賞受賞者の劉暁波(りゅうぎょうは)について、「可能な限り早期に釈放されることを願う」と語り、中国政府を暗に批判したことが話題となった。
[矢板明夫]