改訂新版 世界大百科事典 「蓄熱器」の意味・わかりやすい解説
蓄熱器 (ちくねつき)
accumulator
regenerator
不用の熱を蓄えておいて必要なときに有効に用いるための装置。温度変化を伴う顕熱の形で蓄える場合と相変化を伴う潜熱の形で蓄える場合などがある。
(1)蒸気アキュムレーターsteam accumulator 定常運転中にボイラーの負荷が下がると蒸気があまることになる。この余剰分の蒸気を大きな容器中の水に吹きこんで熱として蓄えておけば,必要なときに蒸気あるいは温水として利用することができる。このような装置を蒸気アキュムレーター,または単にアキュムレーターという。蓄熱を高圧の飽和水の形で行うものを変圧型といい,必要なときには減圧して飽和蒸気を発生させる。電力と蒸気を供給する自家発電システムにおいて,このような変圧型蒸気アキュムレーターを背圧タービンに並列に設けておけば,工場内の動力と作業用蒸気の負荷変動を吸収するのに効果的である。余分の蒸気をボイラーへの給水貯槽中に吹きこんで給水を予熱するのに利用するものを等圧型蒸気アキュムレーターという。ボイラー負荷が高まったときにこの予熱給水を用いるようにすれば,ボイラーの燃焼状態はそのままでも負荷変動に対応することができ,そのためボイラー容量はピーク負荷に比べて小さい容量で足りる利点も生まれる。蒸気アキュムレーターは負荷変動が大きい工場だけでなく,最近では病院やごみ焼却炉の廃熱ボイラー,あるいは地域冷暖房用のボイラーなどにも利用されるようになり,容量も数十m3から8000m3クラスのものまである。
(2)蓄熱槽heat storaging tank 建物の空気調和負荷は外気条件や時刻によって変化する。これに対応するには,ボイラー,冷凍機あるいは熱ポンプなどの出力をそれらに応じて変化させる場合のほかに,一定出力で運転して余剰分を温水または冷水の形で水槽に蓄えることも行われる。これを蓄熱槽あるいは蓄熱水槽という。蓄熱槽を用いれば負荷変動に応じて機器を制御して運転する必要がなくなり,効率のよい運転,ピーク負荷軽減による機器容量の縮小などが可能となる。時刻や天候によって変化する太陽熱を利用する系では,貯湯槽が蓄熱槽を兼ねる場合もある。蓄熱槽では水槽の容積全体が蓄熱に有効に寄与し,熱損失が少なく,水槽に入力されたときの温度に近い温水を取り出せることが望ましい。初期水温と蓄熱槽に入る水の温度の差を⊿T,水槽の体積をV,蓄熱量をHとすると,蓄熱効率はH/(V⊿T)で表される。
(3)その他 燃焼炉では,燃焼用空気を加熱するために,煉瓦積みなどで作った部屋を2ヵ所設け,一方に加熱高温流体(燃焼ガス)を通して熱を蓄え,その間にもう一方に被加熱流体を通して蓄熱分で加熱するという方式がとられる場合がある。これを交互に繰り返すわけであるが,この目的で作られた部屋を蓄熱室と呼ぶ。また,スターリングエンジンあるいは逆スターリングサイクル式の冷凍機では,等容変化の昇温過程と冷却過程どうしの熱交換が蓄熱器を介して行われる。この場合蓄熱器は再生器とも呼ばれる。このほか,空気が太陽熱などの集熱媒体であるときは,砕石に蓄熱することもある。一般に蓄熱に際しては熱交換速度,蓄熱材による腐食なども考慮する必要がある。
執筆者:斎藤 孝基
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報