一般に物体に熱を加えれば物体の温度は上昇する。しかし、1気圧で氷に熱を加えると、0℃になるまでは温度が上がるが、その後はいくら熱を加えても、氷が融解してしまうまでは温度が上がらない。このように、加えても温度の上昇を伴わない熱を潜熱という。潜熱は、固体から液体といった状態の変化に際しておこる。融解に伴う潜熱を融解熱、蒸発に伴う潜熱を蒸発熱という。また、固体から気体に直接変化する昇華の際の潜熱を昇華熱という。
潜熱は、固体、液体、気体の間の相転移の場合に限らず、固体の間の相転移でも存在する場合があり、この場合の潜熱を転移熱という。また一般に潜熱を伴う相転移を一次相転移という。磁性体の強磁性体―常磁性体転移は二次相転移で、転移点で比熱は大きくなるが、転移熱は存在しない。なお、一次の相転移では体積の変化を伴う。潜熱は一般に、単位質量当りの熱量で表すが、1モル当りの熱量で表すこともある。
蒸発熱Lなどの精密な測定は、熱量測定に伴う誤差のため困難であるが、クラウジウス‐クラペイロンの方程式を用いれば、蒸気圧Pの温度による変化と、蒸発の際の体積の変化ΔVから間接に測定できる。この方程式は
dP/dT=L/(TΔV)
である。なお、このような関係は他の相転移の場合にも適用できる。
[小野 周]
気象学では水物質の状態変化に伴う潜熱をさす。熱帯洋上の空気は高温多湿であるが、この空気が上昇運動によって冷却すると、含まれている水蒸気が凝結し大量の潜熱を放出する。この潜熱は熱帯低気圧の主要なエネルギー源となっている。
[股野宏志]
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一次相転移に伴って現れる熱。物質の温度は変化させないで,物質の状態を変化させるために費やされる。融解熱や気化熱などが潜熱の例であり,例えば0℃の氷1gを融解させるのに必要な融解熱は79.4calであるが,この熱を氷に加えても氷の温度は上昇せず,すべて融解に使われる。より大きな熱を加えた場合も融解が完全に終わるまでは温度は一定に保たれる。物体に熱を与えたとき,その熱量に比例して温度変化が現れる場合,この熱を潜熱に対して顕熱sensible heatということがある。
→相転移
執筆者:鈴木 増雄
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…彼はG.D.ファーレンハイトらの研究に手がかりを得て,氷がとけるときに温度が変わらないこと,そのときに必要な熱で同量の水の温度を約80℃上げられることを明らかにし,さらに水の蒸発についても同様の事実を発見した。この潜熱の発見に続いてブラックは,1760年ころ熱容量の研究を始めた。物質によって同じ量を同じ温度上げるのに必要な熱量が異なることを示したのである。…
※「潜熱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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