医薬品や医療機器などの製造販売を厚生労働大臣が承認すること。「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(昭和35年法律第145号。略称、医薬品医療機器等法、薬機法)に基づき、企業から医薬品等の製造販売の承認申請を受け、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が有効性や安全性を審査し、薬事・食品衛生審議会の答申を経て、厚生労働大臣が承認する。また、承認を受けた医薬品等の適用範囲が拡大する場合にも承認が必要とされている。なお、薬事承認を受けた医薬品等が医療保険の適用を受けるためには、承認から原則として60日以内、遅くとも90日以内に中央社会保険医療協議会(中医協)の薬価算定組織の価格設定を受け、中医協総会での承認を経て薬価基準に収載されなければならない。
2014年(平成26)に政府の成長戦略の柱の一つとして健康・医療産業の創出・活性化が取り上げられ、同年11月の薬事法改正により、法律の名称も薬事法から医薬品医療機器等法に改められた。改正法では、医薬品や医療機器などの安全性の確保、医療機器の特性を踏まえた承認等規制の再編、再生医療等製品の特性を踏まえた規制の構築の三つを柱としている。翌2015年には各省の医療分野の研究開発関連事業を集約してPMDAが創設され、薬事の承認審査もPMDAが担うこととなり、医薬品・医療機器・再生医療等製品の安全性を図り、審査の迅速化に向けた活動が強化された。それにより治験や審査に時間を要し新薬の発売が欧米より遅れるという「ドラッグ・ラグ」もしだいに解消されていくことが期待され、2019年(令和1)には、新医薬品の審査期間の目標値をクリアした。
また、2015年から2019年にかけて一定の要件を満たす画期的な新薬等について、開発の早期段階から優先的に薬事承認に関する相談や審査に応じることなどにより、迅速な実用化を図る「先駆的医薬品等指定制度(先駆け審査指定制度)」が実施された。続いて2019年には、有効な治療法等がない重篤な疾患に対する医薬品で、患者数が少ない等の理由で検証的臨床試験の実施が困難なものや長期間を要するものに対応するため、「医薬品の条件付き早期承認制度」が法制化された。これらの医薬品等については、検証的臨床試験以外の臨床試験等で一定程度の有効性および安全性を確認したうえで、製造販売後に有効な有効性・安全性の再確認等の調査等を実施すること等を条件として承認し、医療上とくに必要性が高い医薬品への速やかな患者アクセスの確保を図ることとした。医療機器についても同様の対応が講じられた。
2020年5月、厚生労働省は新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)の拡大に対して、その治療に関する知見が限られていることから、医薬品医療機器等法第14条の3第1項に定めている特例承認を行うこととし、アメリカのギリアド・サイエンシズ社(以下、ギリアド社)がエボラ出血熱を対象に開発を進めていた「レムデシビル」(商品名「ベクルリー」)を承認した。特例承認とは、疾病の蔓延(まんえん)防止等のため緊急の使用が必要であること、当該医薬品の使用以外に適切な方法がないこと、海外で販売等が認められていることを要件として、医薬品の承認申請書類のうち臨床試験以外のものを承認後に提出することを認め、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて承認を行うことができるとしたものである。レムデシビルは申請からわずか3日後の承認であった。レムデシビルは、ICU(集中治療室)に入っている患者、ECMO(エクモ)(体外式膜型人工肺)を導入している重症患者を対象として投与される。また、特例承認の要件として、医薬品リスク管理計画を策定・実施する、可能な限り全症例についてデータを収集し報告する、進行中の治験や臨床試験の成績を速やかに報告する、副作用などを速やかに報告する、本剤が特例承認されたものであることを使用する医療関係者や患者・代諾者に説明する、承認に際して猶予された資料は承認取得後9か月以内にPMDAに提出する、といったことなどが義務づけられている。レムデシビルは当初、ギリアド社から無償提供された。通常、保険収載されていない薬剤と保険診療との併用は認められていないが、中医協は特例として、保険診療との併用を認める評価療養に該当するものとした。2021年、ギリアド社からレムデシビルについて保険適用の申請があり、承認後に薬価の決定がなされた。
続いて2020年7月、厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症診療の手引き」を改訂して、ステロイド系抗炎症薬の「デキサメタゾン」を治療薬として承認した。デキサメタゾンは、アメリカやイギリスなどで新型コロナウイルス感染症の治療に効果があるといわれており、日本では2例目の正式な治療薬となる。デキサメタゾンはすでに日本で保険薬剤として承認されており、後発医薬品も製造されている。
2022年には、新型コロナウイルス感染症に対する経口抗ウイルス薬「ゾコーバ」が緊急承認された。緊急承認とは特例承認よりさらに迅速に承認できる制度として2022年に創設されたもので、通常の承認で必要な臨床試験が完了していないものについても、有効性が推定されれば、条件を付して承認することができる。
こうしたなかで、一時改善傾向にあったドラッグ・ラグがふたたび顕在化しており、その対応が求められている。ドラッグ・ラグ拡大の背景として、アメリカやヨーロッパ諸国に比べ、日本の治験開始の手続が煩雑であったり、患者登録が迅速に進まなかったり、臨床試験の費用がかさんだりして、治験がしにくいという環境があげられている。また、日本法人のない新興バイオ企業が開発する新薬が増えていることや、遺伝子治療などで求められるカルタヘナ法(遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律)への対応に時間を要することなども指摘されている。再燃しているドラッグ・ラグ問題に対処するためには、日本の治験環境の改善や多くの規制の緩和など、さまざまな取組みが必要になっているといえよう。
[土田武史 2023年10月18日]
『薬事衛生研究会編『2020―21年版 薬事関係法規・制度解説』(2020・薬事日報社)』▽『薬事日報社編・刊『薬事法令ハンドブック――医薬品医療機器等法、施行令、施行規則 令和2年9月施行版』(2020)』
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