医療保険の診療報酬(薬価基準および材料価格基準を含む)の改定および療養担当規則の改定に関して、厚生労働大臣の諮問を受けて審議、答申するほか、自ら建議することを任務とする厚生労働大臣の諮問機関。略称、中医協。委員構成は、支払側(保険者、被保険者、事業主の代表)7名、診療側(医師、歯科医師、薬剤師の代表)7名、公益側6名の三者構成で、公益委員のうちから会長を選出する。委員任期は最長6年。必要に応じて10名以内の専門委員(製薬業界、看護師団体、検査技師団体等)を置くことができる。通例として2年ごとに診療報酬の改定を行う。また、中医協内に公益委員を部会長とする薬価専門部会、保険医療材料専門部会、診療報酬改定結果検証部会、費用対効果評価専門部会が設けられている。改定にあたっては、診療報酬を所管する厚生労働省保険局医療課が事務局案を作成するなどの役割を担っている。
1950年(昭和25)に設置されて以来、中医協は診療報酬をはじめ医療給付の水準(診療基準)を定め、保険医療機関の機能と連携等をめぐる支払側と診療側の主張を調整し、国民の医療ニーズ(要求)と医療技術の進歩に対応した効率的な医療保険の運営を図る役割を担ってきた。国民皆保険体制が成立し、高度経済成長を背景に保険給付の充実が図られ、医師および医療機関のおもな収入が保険診療によるものとなるなかで、中医協における診療報酬の決定をめぐって支払側と診療側の対立が激しくなった。しかし、診療報酬を決めるにあたって明確な算定ルールがなかったことなどから、中医協の場で診療報酬の改定率をめぐる両者の合意が成立せず、2000年(平成12)ごろまでは政府与党による政治決定が行われることもみられた。
2004年4月、中医協委員が2002年度診療報酬改定におけるかかりつけ歯科医初診料をめぐる贈収賄容疑で逮捕されるという事件(日歯連汚職事件)が起こった。それを機に中医協のあり方の見直しが行われ、「中医協改革の在り方に関する有識者委員会」の報告を受けて、2005年7月に中医協改革が行われた。その内容は、(1)診療報酬の改定率は予算編成に際して内閣が決定する、(2)診療報酬改定に係る基本方針を社会保障審議会の医療保険部会および医療部会が決定する、(3)中医協は前記の改定率と基本方針に基づき診療報酬点数に係る改定を審議し答申する、(4)多様な意見を審議に反映させるため、支払側委員に患者代表、診療側委員に病院代表を加える、(5)公益機能を強化し公益委員を4名から6名に増員し、それに対応するため支払側および診療側の各委員を8名から7名にする、(6)診療報酬改定に際して国民の意見を聴取する(パブリックコメントの募集、公聴会の開催)、(7)診療報酬改定の検証を行うこととし、中医協内に診療報酬改定結果検証部会を設置すること、などである。
この中医協改革によって、中医協における審議の中心が、診療報酬の改定率をめぐる議論から、診療報酬の内容(診療報酬対象となる各分野における点数、請求要件など)をめぐる議論へと変わった。改革後の最初の改定となる2006年度改定で-3.16%(診療報酬本体-1.36%、薬価等-1.8%)という史上最大のマイナス改定率が内閣から提示され、その枠内で政府の「医療改革の基本方針」に沿った診療報酬体系の改革を行うことが求められた。それにより、診療報酬の改定では医療のコストを反映させるだけではなく、医療費抑制を誘導する機能が強まることとなった。しかし、医療費の大幅引下げは、地方病院の経営難や病院勤務医の労働条件悪化など医療荒廃といわれる状況を招いた。そのため2008年度改定では内閣から診療報酬本体で+0.16%の引上げが示されたが、課題にこたえるには政府の財源が少なく、開業医の診療報酬を抑制して病院勤務医の雇用改善財源を調達する方策などが講じられた。また、2005年に設置された検証部会が2006年度改定後の状況を調べ、新たに設けられた疾患別リハビリテーション料の一部見直し策を講じたり、7対1(昼夜を平均して患者7人に看護師1人を配置)入院基本料の導入による看護師不足の状況を調べたりするといったことも行われた。
2009年の民主党への政権交代後、任期切れに伴う委員選任の際に日本医師会執行部の委員が再任されず、厚生労働大臣の指名による選任が行われ、中医協における政治の関与が表面化した。しかしその後は日本医師会推薦の委員が選任され、政治関与は控えられている。
2013年の社会保障制度改革国民会議報告に基づく医療制度改革が進められるなかで、中医協においても、急性期病床の機能分化が求められるのに対応してDPCデータ(「厚生労働大臣が指定する病院の病棟における療養に要する費用の額の算定方法〈厚生労働省告示第93号〉」第5項第3号の規定に基づき厚生労働省が収集し管理する情報)を活用した急性期病床の機能分析と評価が行われた。
高額な医療技術の増加に伴う医療保険財政への懸念が強まるのに対応して、2010年ごろから中医協において費用対効果評価の検討が議論されるようになり、2012年に費用対効果評価専門部会が設置された。2015年に費用対効果評価の分析を進めるためのガイドラインが策定され、試行的運用などの検討が行われた。2016年に13品目(医薬品7品目、医療機器6品目)を対象に費用対効果評価制度の試行的な運用が開始されたが、その評価の結果は、保険償還の可否の判断に用いるのではなく、いったん医薬品や医療機器を保険収載したうえで、それらが効果に見合った価格に設定されているかを検討する指標に用いることとされている。
試行的導入では、対象となった医薬品・医療機器を製造する企業が分析データを提出し、ついで研究者等の第三者による再分析が行われ、それらをもとに科学的な観点や倫理的・社会的影響に関する検証などを行って「総合的評価(アプレイザル)」が出されるという流れで行われた。しかし、企業が提出したデータと第三者による再分析との隔たりが大きく、総合的評価がむずかしいケースが多く、試行的導入の対象となった13品目のうち6品目が両論併記、1品目が分析困難となり、さらに検討がなされることとなった。厚生労働省では、諸外国における費用対効果評価制度の導入状況等も参考にしながら、現行の価格算定方式を補完する制度として本格的導入に向けた試行の拡大と検討が重ねられ、2019年4月に費用対効果評価制度が正式に導入された。
また、診療報酬改定について、2018年度、2020年度、2022年度と、3回続けて支払側と診療側が合意に至らず、公益裁定が続いている。その背景として、医療政策に関連する事柄に関して中医協の外で詳細な方針まで言及されるなど、外部からの影響力が増していることが指摘されている。強まる外圧のなかで、中医協がエビデンスに基づいた有効性・安全性・利便性に基づいた審議を重ねていくことが期待されている。
[土田武史 2023年10月18日]
『有岡二郎著『戦後医療の五十年――医療保険制度の舞台裏』(1997・日本医事新報社)』▽『佐藤敏信著『THE 中医協――その変遷を踏まえ健康保険制度の『今』を探る』(2019・薬事日報社)』▽『吉原健二・和田勝著『日本医療保険制度史』第3版(2020・東洋経済新報社)』▽『池上直己、J・C・キャンベル著『日本の医療――統制とバランス感覚』(中公新書)』
厚生大臣の諮問機関。健康保険や国民健康保険等の医療保険および老人医療の,診療報酬点数表といわれる療養に要する費用の算定方法は,厚生大臣が中央社会保険医療協議会(中医協と略称)に諮問し,その意見を聴いて定めることになっている。中医協の委員は支払側委員8名,診療側委員8名,公益委員4名の3者で構成される。診療報酬は個別の医療行為ごとに点数が定められており,その点数に単価(10円)を乗じた額であり,〈点数単価方式〉といわれる。また診療報酬が,個々の行為の合計であることより〈個別出来高払方式〉ともいわれる。21世紀を目指した社会保障制度の改革の一環として医療制度・医療保険制度の改革,介護保険制度の創設が行われ,従来ほぼ2年に1回ずつ行われてきた診療報酬の全面改定が関連制度の改正に応じて改定されている。そこでは,限られた医療資源の有効活用のため医療の効率的提供が不可欠になっていることを背景に,医療施設機能の体系化,要介護者に対応した医療提供体制,特にかかりつけ医および在宅医療の推進の動きに合わせた点数表の改定がなされ,さらに近く介護保険制度に関連した改定が行われるであろう。中医協の会議では,よりよい医療の提供と医療施設の経営の安定とを目ざす診療側委員と,保険団体の財政の安定と被保険者の保険料負担の上昇の抑制とを意図する支払側委員との間に激しい論議がしばしばなされている。
執筆者:西 三郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(梶本章 朝日新聞記者 / 2007年)
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…保険医,保険薬剤師の診療報酬は厚生大臣が定めることとなったが,厚生大臣が点数表および1点単価を定めるにあたっては日本医師会,日本歯科医師会の意見を聞くことが法律で定められた。その後厚生大臣の諮問機関として社会保険診療報酬算定協議会が設けられ,50年この協議会は中央社会保険医療協議会に吸収され今日に及んでいる。したがって現在では社会保険診療報酬の価格は,厚生大臣が中央社会保険医療協議会の意見を聞いて定めることになっている。…
※「中央社会保険医療協議会」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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