血痕は犯罪捜査および裁判上の有力な物的証拠であり、法医学的にしばしば血痕検査が行われる。血痕検査によって、犯行現場や着衣などにおける血痕付着の状態、すなわち、その位置、配列、形状などから、犯罪の行われた状況、たとえば被害者と加害者との位置的関係、自他殺の別などを推定できることがある。
血痕の形状には、飛沫(ひまつ)痕、滴下痕、流下痕などがあって、分光化学的な検査方法で、血量の測定、血痕がいつごろのものであるかの陳旧(ちんきゅう)度を判定する。また、出血部位(たとえば月経血等)の判定方法などもある。しかしながら、血痕と似た斑痕(はんこん)(しみ)はきわめて多いので、肉眼的な検査だけでは血痕と確認することはできない。したがって、これらの斑痕については、人血か否か、人血とすれば血液型はなにかといった血清学的検査が必要となる。血痕検査には、予備試験(斑痕が血痕かどうかのおよその見当をつけるもの)、本試験または実性試験(血痕かどうかを確認するもの)、人血試験または種属判別試験(血痕がヒトのものかどうかを判別するもの)、血液型検査(人血痕のABO式およびその他の血液型を判定するもの)などがあるが、血痕量が微小の場合とか汚染されている場合には判定が困難であり、血痕から事実を判断しようとする採証学的な効果が得られないこともありうる。昭和20年代におきた、いわゆる弘前(ひろさき)大学教授夫人殺害事件、財田川(さいたがわ)事件、免田(めんだ)事件などの諸事件が、昭和50年代になって再審開始となったのは、いずれも微量血痕に関する採証学的価値が問題となったためである。
[船尾忠孝]
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