最新 心理学事典 「行動医学」の解説
こうどういがく
行動医学
behavioral medicine
行動医学という語を最初に著書に用いたのはバークBirk,L.(1973)であるとされているが,その著書の主題がバイオフィードバック技法であったことから,イェール会議以前の行動医学はバイオフィードバック技法と同義であるとの誤解も多くあった。その後アメリカでは行動療法促進協会から独立して1979年に行動医学会が設立されたが,設立当初は喫煙や肥満,ストレス関連問題などの限定的なテーマの研究に限られていたため,臨床現場で用いられる方法も,バイオフィードバック技法,リラクセーション訓練,オペラント条件づけなどがあるにすぎなかった。現在の行動医学の適用領域は,基礎的な脳-身体相関の解明から,臨床診断と治療,さらに疾病予防および健康増進のための公衆衛生活動にまで広がっている。
行動医学の草創期から強調されていることは,行動医学は行動科学を基盤とするという点である。すなわち,実験や調査によって適切に測定されたデータの統計的解析に基づき,実証科学的に知見を積み重ねながら,行動の一般的な法則に関する結論を導くことをめざす行動科学に立脚し,それらの成果を医学領域に応用することを指向している。したがって,行動医学の領域においては,行動療法behavior therapy(学習理論,あるいは行動理論に基づき,不適応的な習慣を克服するために用いられる行動変容の総称)や認知行動療法が直接果たす役割の割合が大きい。また,行動医学の発展に従って,疾病の発生と診断,および治療に関するモデルを提供するとともに,学際的な観点から診断と治療に関する具体的方法論を構築することが可能になった。臨床現場で用いられる方法も,伝統的な方法に加え,認知的再体制化法(認知再構成法),自己モニタリング技法,随伴性マネジメント技法など,飛躍的な広がりを見せている。
具体的な実践方法としては,心身症,神経症,さまざまな問題行動に対して行動療法,認知行動療法,バイオフィードバック療法,リラクセーション技法などによる直接的介入を行なうもの,糖尿病,高血圧,虚血性心疾患,肥満などの生活習慣病予防のための行動変容を促す(心理)教育を行なうもの,慢性疼痛などの慢性身体疾患の治療管理を行なうもの,疾患や問題行動の予防的観点から,その要因になりうる生活環境で生じるストレスのマネジメントや健康行動の確立と維持を行なうもの,などが挙げられる。
わが国においては,1992年に日本行動医学会が設立され,欧米においても主要な適用領域であった,精神科,心療内科,神経内科,リハビリテーション科,小児科,整形外科,公衆衛生などの一部の医師や,一部の臨床心理士などによって,それぞれの現場で少しずつ活動が行なわれてきた。しかしその後,多様な専門性を有する広範な領域の医療関係者,コメディカルスタッフ(医師・看護師以外の医療従事者)によって行動医学は着実な発展を見せてきたが,今後は欧米においても行動医学的アプローチが効果を上げている循環器内科,胃腸科,産婦人科,腫瘍内科,外科,疼痛科(ペインクリニック)などの領域において,よりいっそうの広がりが期待される。 →認知行動療法
〔嶋田 洋徳〕
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