改訂新版 世界大百科事典 「行動変容」の意味・わかりやすい解説
行動変容 (こうどうへんよう)
behavior modification
行動変容(または行動修正)と行動療法とは同義的または互換的に使用され,いまだ明確な統一見解はない。そのいずれの用語をとるかは,行動療法の基礎理論としてレスポンデント条件づけ法を重視するかオペラント条件づけ法(条件づけ)を重視するか,変容の対象行動が神経症以上の不適応行動か一般的人間行動か,臨床心理学的実践を先発の医学との関係でどうとらえるか,あるいは基礎理論が学習理論だけかそれに限らず実験心理学から広義の行動科学のものまで広げるかなどの違いによることが多く,しかもそれらが錯綜して無自覚的に使用されている。ここでは行動変容は行動療法よりも広義に解すべきものとする。
行動療法の著しい有効性に着目した研究者たちは1960年代に入ると,その考え方や適用範囲を問題行動から人間行動全般へと拡大していった。つまり行動決定において,当人の主体的意志が唯一の中心原因であると考えた従来の大勢的考え方に対して,行動療法や行動実験の成果は,行動を持続させている随伴性管理の問題に目を向けさせた。随伴性とは行動分析における事象間の関係規定条件をいう。レスポンデント条件づけ法では条件刺激と無条件刺激の間の管理が,オペラント条件づけ法では反応と強化の間の管理が重要である。さて随伴性管理を検討してゆくと,人間の行動決定には予想以上に環境刺激条件が大きく効いている事実がわかった。そこで対象行動場面を心理治療の臨床に限らず,家庭,学校,社会に広げた。社会行動の要因分析としての社会的随伴性,そこでの環境条件の分析,抽出,操作というテーマを取り上げるに至った。それが行動変容(学)であり,同義語に行動工学behavioral engineeringがある。なおこの要因の分析操作方法は行動分析behavior analysisと呼ばれ,力動的心理療法において使用される心理(精神)分析と対比される重要な手続である。
技法としては行動療法と同じものが使用されるが,さらに自発性訓練(または自己統制,自己監視,自己強化),模倣学習(またはモデリング),潜在学習,認知的行動療法などのひろがりをみせている。たとえば肥満は美容上,保健上ばかりか社会生活上も大きな弊害があるが,減量法としてこれまでは摂取カロリーの減量か,消費エネルギーの増大だけを意図したものであった。これに対して行動変容法は食事環境の分析とその改変を意図した刺激統制法を採用する。研究分野としてはこのほかに,教室内・外行動,公共乗物利用システム,車の制限速度,空缶・ごみ公害対策,マスコミによる啓蒙法,居住空間,各種施設の居住者教育,都市設計,パトロール方法,異民族混住などにおける問題点の分析と対策など,社会的重要性をもった領域で,従来の限界を破る具体的改善成績をあげはじめている。20世紀が機械,化学,電子工学の世紀であったとするならば,21世紀は正に行動工学の世紀でなければならない。
→行動療法
執筆者:梅津 耕作
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報