1931年製作のアメリカ映画。チャップリンが《サーカス》(1928)と《モダン・タイムス》(1936)の間につくった作品で,冒頭に〈コメディ・ロマンス・イン・パントマイム〉というタイトルをかかげている。サイレント映画は,ある民族の一つの言語にしばられない全世界に通ずる表現形式であり,30年あまりかかって完成された純粋に視覚的な新しい芸術形式である,と考える原則的トーキー反対論者のチャップリンが,伴奏音楽と音響だけを入れた〈サウンド映画〉の第1作である。
チャップリンは《サーカス》の完成以来腹案を練り,足かけ4年を費やして,一文なしの浮浪者の盲目の花売娘への献身を描くこの作品を完成させた。冒頭の〈平和と繁栄の記念碑〉の除幕式の場面(浮浪者チャップリンはその像の上で眠っている)に示されるように,この作品は,世界恐慌に揺り動かされて,平和と繁栄からほど遠い1930年代アメリカの,深刻な不況と失業社会に対する暗黙の批判もこめた〈コメディ・ラブ・ロマンス〉であったといえる。この批判精神は,その後のチャップリン映画に引き継がれている。
執筆者:柏倉 昌美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
アメリカ映画。監督チャールズ・チャップリン。1931年作品。トーキー映画が主流となりつつあった1920年代後半から1930年代初頭に発表された無声映画。チャップリンが盲目の貧しい花売り娘に恋をする浮浪の男を演じている。盲目という設定が、無声による本作品においてドラマを際だたせる装置となっている。音の使用は効果音と、チャップリン自身が作曲した楽曲のみ。トーキー映画が浸透し人気を博すなか、映像で喜劇と悲哀の物語を表現し、批評家たちから高い評価を受けるとともに、興行的にも成功した。トレードマークの衣装や口ひげ、パントマイムは健在。監督としての作家性、俳優としての演技力を改めて世に知らしめた作品である。物語の結末部分では、主人公(チャップリン)と花売り娘との顔のクローズアップショットの連続により、お互いの複雑な心情を映像で伝え、悲喜劇のなかの哀切さを表現した。撮影期間が1年以上にも及び、途中何度も中断したという。トーキー映画時代に突入したなかでの、チャップリンの苦悩の末の無声映画作品であることがうかがえる。1934年(昭和9)日本公開。
[堤龍一郎]
… そして早くも《チャップリンの替玉》(1916)その他で単なる笑劇から風刺劇へ変わっていくその後の作品の原形を示し,18年にファースト・ナショナル社と契約して製作上の完全な自由を得てからは,〈スラプスティック〉,すなわちドタバタの笑いのパターンとは異質の新しい笑い,人間的なユーモアと風刺へ昇化した笑いの創造を目ざし,〈戦いの神の犠牲〉にささげられたあわれな兵隊をペーソスと風刺をこめて描いた《担へ銃》(1918)や,社会的風刺が加わった最後の短編《偽牧師》(1923)を作り出している。19年にメリー・ピックフォード,ダグラス・フェアバンクス,D.W.グリフィスと共同で設立したユナイテッド・アーチスツ社でつくった《巴里の女性》(1923),《黄金狂時代》(1925),《サーカス》(1928)をへて,《街の灯》(1931)に至って,冒頭に〈コメディ・ロマンス・イン・パントマイム〉というタイトルがかかげられ,ユーモアとペーソス,笑いと涙のチャップリン映画が完成する。 すでにそのころアメリカではトーキー映画時代を迎えていたが,チャップリンは最後までトーキーに反対し,映画は〈純粋に視覚的な新しい芸術形式〉であると信じ,〈映画は沈黙の芸術である〉,トーキーは〈世界最古の芸術であるパントマイムを亡ぼそうとしている〉とも語っている。…
※「街の灯」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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