製図器具(読み)せいずきぐ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「製図器具」の意味・わかりやすい解説

製図器具
せいずきぐ

製図に用いる機器、用具総称。製図器、製図機械定規類、物差し類、製図板鉛筆、型板(テンプレート)などがあげられる。

大西 清]

製図器

形式により、イギリス式、ドイツ式があり、いずれもコンパス、デバイダー、からす口などがそれぞれ大小数本ずつ組み合わされてセットになっている。このうち大コンパスは普通、替え穂式で、からす口、鉛筆、デバイダーなどの穂先、あるいは中継ぎ(大円を描くとき脚を伸ばすために用いる)をそれぞれ差し替えて使用するようになっている。また中コンパス、スプリングコンパスは、からす口、鉛筆、デバイダーとそれぞれ専用につくられている。コンパスは古来ぶんまわし(規)といったが、ポルトガル語に基づくコンパス(根発子)という呼び名もすでに『和漢三才図会』などにみえる。明治の前半までは製図器械を総称してコンパスといったため、現在でも業界では製図器のセットのことをコンパスセットとよんでいる。このほかドロップコンパスは、とくに精密な小円の墨(すみ)入れに便利なようにつくられ、ビームコンパスは大コンパスでも描けないような大円または大円弧を描くときに、直定規などに取り付けて使用される。

 デバイダーは、コンパスの両脚とも針先としたもので、両脚の開きで、品物の長さや物差しの寸法を紙面に移したり、線や円弧などの間隔を分割するのに用いる。比例コンパスもデバイダーの一種であるが、溝にはめられたこまを動かすことにより、上・下の両脚部の開きをある一定の比とすることができ、縮尺あるいは倍尺の図面を描くときにきわめて便利である。

 からす口は、直線あるいは曲線の墨入れを行うのに用いる器具で、柄(え)と2枚の刃およびその間隔を調整するねじを有し、刃の間に墨汁またはインキを含ませて線を引く。線の太さ、長さにより大型・中型・小型のものを使い分けて使用するが、正確な線を引くためには、刃先が適宜鋭利であり、かつ先端が丸く研がれていることが必要である。からす口にインキを含ませるには、小紙片をインキに浸して行うが、あまり多く含ませるとインキがこぼれるおそれがあり、また少なすぎると途中でインキ切れすることがあるので、必要な量のインキを含ませるようにしなければならない。

[大西 清]

定規類

製図に用いる定規には、直定規、三角定規T定規曲線定規自在曲線定規、勾配(こうばい)定規、その他のものがある。直定規は、ほとんどの場合目盛りが刻まれていて、物差しと兼用される。三角定規は、直角三角形で45度と45度のもの、60度と30度のものが2枚1組になっている。三角定規では直角部分が正確であることがとくにたいせつである。また購入する場合には、2枚の定規をぴったりと密着させてみて、その間にすきまがないことを確かめることが必要である。T定規は、文字どおりT形をした定規であって、その短いほうの部分を製図板の縁に当てて滑らせ、平行線を引いたり、三角定規を長手のほうの縁に滑らせて、垂直線や斜線を引いたりするのに用いる。直定規、三角定規、T定規など直線を引くのに用いる定規では、とくに縁の直線部分が正確であることがたいせつで、使用にあたっては縁を少しでも傷つけることのないよう注意が必要である。

 また曲線を引く場合には、普通、雲形定規が使用されるが、これには多くの曲線を巧みに組み合わせた何枚かのものがセットになっており、これらのなかから適当な部分を選んで曲線を描く。曲線定規にはこのほかに、しない定規(たわみ定規)、R定規(カーブ定規)、自在曲線定規などがある。

[大西 清]

製図板

製図するとき製図用紙を張り付ける台板であるが、一般には専用の台脚に取り付け、高さ、角度が自在に調節できるようになっている。また板の表面はビニルシート張りとしたものが多く、なかにはこれを磁性シート張りとして、スケールテープによって容易に用紙を固定できるようにしたものがある。大きさはA0用、B1用、A1用のものが多く市販されている。

[大西 清]

物差し、分度器

物差しは現在ではアクリル樹脂製がほとんどであるが、竹製、スチール製のものも使用される。目盛りは1ミリメートル刻みで、一部に0.5ミリメートルが刻まれているものがよい。なお縮尺図面を描くときには、三角スケールか、製図機械用縮尺スケールなどを使用する。

 分度器は、半円形または全円形の円周に1度刻みの目盛りを刻んだものであるが、近年、立体製図を行うとき、等角投影を用いる場合には、円は楕円(だえん)となるため、楕円上の角度を定めるために楕円分度器が使用されている。

[大西 清]

鉛筆

現在では鉛筆書きの図面でも簡単に青図がとれ、また第二原図を使用すれば保存性もきわめて優秀であるところから、特殊なもの以外はインキングを行わず、鉛筆仕上げのままで出図される場合がほとんどである。製図に使用する鉛筆の芯(しん)の硬さは、HB、F、H、2H、3H程度のものを用意すればよく、また最近ではいちいち芯を削る必要のない0.7、0.5、0.3ミリメートルなどの細芯ホルダーが使用されている。

[大西 清]

型板

図の一部を習い書きするときに用いる種々の形を打ち抜いた薄い板。いろいろな大きさの円、楕円、記号類、ボルトなどの形状が切り抜いてあるので、容易かつ能率よくそれらの図形を描くことができる。

[大西 清]

製図機械

近年では、T定規や三角定規、分度器などの機能をあわせもった製図機械が広く使用されている。これは、互いに直角に固定された2個のスケールを、ベルト・プーリー機構あるいはレール機構などによって、製図板上のいずれの位置にも正確にかつ軽快に平行移動ができるようにしたもので、スケールには目盛り(1ミリメートル、0.5ミリメートルあるいは各種縮尺目盛り)が施されているから、必要な長さの線をただちに引くことができる。またハンドル部にはバーニヤ付きの分度盤が取り付けられており、スケールを必要な角度に回転固定することができるようになっている。

 以上のような製図機械はすべて手動のものであるが、今後自動化の道を歩むことは必至であり、すでにコンピュータを駆使した高性能の自動製図機が、電子・造船・建設・化学プラントなどの分野では広く導入されている。自動製図はさらにCAD(キャド)/CAM(キャム)(computer aided design/computer aided manufacturingコンピュータ支援設計・生産)システムの重要な因子として、急速な発展を遂げつつある。

[大西 清]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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