第1次大戦の戦場を舞台としたレマルクの長編小説。1929年発表,たちまちベストセラーとなり,以後32ヵ国語に翻訳された。19歳のギムナジウム(高等学校)生徒パウル・ボイマーは級友と共に兵役を志願させられ,10週間の訓練ののち西部戦線へ送られる。激しい戦闘の続く中,級友は次々にたおれ,ドイツ軍の敗色濃い1918年秋,パウルもついに戦死。すでに休戦の気配がただよい,司令部報告に〈西部戦線何事もなし〉と書かれるほど静かな日のことであった。物語はパウルの死を伝える最後の数行以外,パウル自身による手記の形をとっている。絶叫的な反戦の訴えがあるわけではないが,きわめてリアルな戦場の描写,砲弾穴の中で自分の刺し殺した敵兵と一昼夜をすごすパウルの心の動き,戦争についての懐疑などから,おのずと戦争の悲惨さ・空しさがにじみでて読者の心をとらえる。彼の名を世界的にした作品である。
執筆者:渡辺 健
1930年アメリカのルイス・マイルストン(1895-1980)監督により,《All Quiet on the Western Front》の題で映画化された。キング・ビダー監督《ビッグ・パレード》(1925),ラオール・ウォルシュ監督《栄光》(1926)いらいの人道主義的な戦争批判につながるハリウッド映画であり,同年に同じ第1次世界大戦を素材にして戦争の恐怖と残忍さを描いて戦争反対を主張したG・W・パプスト監督のドイツ映画《西部戦線一九一八年》と並んで映画史を飾る反戦映画の古典的名作。1929-30年度アカデミー作品賞,監督賞を受賞。ソ連のエイゼンシテイン監督は,この映画を哲学博士の学位論文にたとえ,またフランスのジャン・ルノアール監督は,戦う人間の真実の姿を描いた唯一の映画であり,この映画に刺激されて《大いなる幻影》(1931)をつくったと述べている。世界的に反響をよんだものの,多くの国の検閲でカットされ,ハリウッド映画の重要な市場であったドイツではナチ党員の組織的な妨害によって公開が中止され,フランスでは62年になって初めてオリジナル版が公開された。
執筆者:柏倉 昌美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ドイツの作家レマルクの長編小説。1929年刊。主人公の学徒志願兵パウルは第一次世界大戦に参加した作者の分身で、この兵隊の戦争体験を通して戦争の無意味さ、空しさを追求する。荒涼たる前線では福音(ふくいん)や輪廻(りんね)の教えも別人生のことばにすぎず、哲学など無用の学でしかない。一兵卒にとっては、祖国という名称はひとかけらの価値もない。偶然に支配される人間の生のもろさはパウルの戦死で明瞭(めいりょう)に示されるが、それも一片の「異状なし」の報告で終わる。戦場では人間の生死が一枚の紙切れで始末される。前線では兵卒同士の戦友愛、連帯感の美しい心情が生まれるが、それが戦争美化にはつながらない。この作品は、戦争告発の書として29か国語に訳されるベストセラーとなり、翌1930年アメリカで映画化(ルイス・マイルストーン監督)された。また、ナチスの時代には焚書(ふんしょ)に付されている。
[古賀保夫]
『秦豊吉訳『西部戦線異状なし』(新潮文庫)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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