日本大百科全書(ニッポニカ) 「親権停止制度」の意味・わかりやすい解説
親権停止制度
しんけんていしせいど
民法で定められた親権制限制度の一つ。2012年(平成24)4月施行の民法改正により創設された制度で、親による虐待や育児放棄などから子供を守るために、一時的に親権の行使を制限するものである。申立てにより家庭裁判所が宣告。子供の心身や生活状況を考慮し、2年を超えない期間内で適切に親と子を引き離して子供の安全を守り、その間に家庭環境を改善して親子の再統合を図ることをねらいとする。これまで民法に定められていた親権制限制度は親権喪失のみであったが、親権喪失は親権を無期限に奪うもので、親子関係をふたたび取り戻せなくなるおそれがあった。そのため、親権を制限したい場合でも申立てがほとんどなされなかったことを踏まえた新制度である。
今回の改正では、親権が子供の利益のために行われることを改めて明確にするため、親権の規定に「子の利益のために」という文言が追加された。また、これまで家庭裁判所への親権制限の請求権をもつ者は子供の親族、検察官、児童相談所長に限られていたが、新たに子供本人、未成年後見人(親権が制限された親に代わって子供の世話や財産管理などを行う者)および未成年後見人監督人(未成年後見人の事務を監督する者)も請求権をもつこととなった。さらに親権制度の見直しとともに未成年後見制度も見直され、これまで個人、かつ、一人と限定されていた未成年後見人の幅を広げ、社会福祉法人などの法人や複数の個人も選任できるようになった。
厚生労働省によると、2012年度に全国の児童相談所が対応した児童虐待の件数は6万6807件(速報値)で、初めて6万件を超えた。このうち親権停止制度に基づき児童相談所長が申立てを行った事案は17自治体で27件、法人または複数人の未成年後見人の選任申立ては8自治体で13件あった。
[編集部]