改訂新版 世界大百科事典 「解体工法」の意味・わかりやすい解説
解体工法 (かいたいこうほう)
すべての建築物にはおのおの寿命がある。使用している材料が古くなると,劣化して所定の性能を保持できなくなるし,また材料はまだ十分な性能を有していても,建物の使用目的や生活方法が変化して十分な機能を発揮できなくなる場合も多い。そのような状態になると,建物を取り壊して新しく建て直すことになる。建物を取り壊す工事を解体工事demolitionといい,そのための方法を解体工法と呼ぶ。木構造や鉄骨構造の建築物の解体は比較的容易である。すなわち,これらの構造は部材を組み立てていく構造であり,解体のときは接合部を順次取り外していけばよい。また,木材はのこぎりで容易に切断でき,鉄骨はガスを用いて切断することができる。もっとも解体の困難なのは鉄筋コンクリート構造である。日本に鉄筋コンクリート構造が導入されたのは明治時代の後期であるが,その後徐々に建設量が増加し,第2次世界大戦後急増した。近年,種々の意味で寿命に達した鉄筋コンクリート構造建築物が多くなり,能率がよく安全な解体工法が強く求められるようになってきた。
コンクリートの解体工法
コンクリートの解体には次のような方法が用いられている。(1)ブレーカーの利用 もっとも古くから行われている方法は,先のとがったのみを用いるものであり,石の加工に用いられていた方法である。こののみを圧縮空気または油圧で振動させるようにした機械がハンドブレーカーである。手で持って作業をするので,チェーンソーと同じように作業者に振動障害を与える危険がある。このブレーカーを大型化し走行式機械に搭載したものも多く使用されている。作業能率は非常によいが,騒音と振動が非常に大きいのが問題である。(2)鋼球の利用 クレーンで鋼球をつり,その鋼球をコンクリート構造物にぶつけて解体するという原始的な工法がある。能率は比較的よいが,作業の安全性が十分でない。とくに横振りは危険であり,できるだけ避けたほうがよい。(3)ジャッキ・圧砕機の利用 多層建築の床と床の間にジャッキを設置して,油圧でジャッキを押し上げれば床のコンクリートが壊れる。同様の方法ではりも解体することができる。圧砕機はコンクリートをつかむようにして圧縮破壊させる機械であり,柱,はり,壁の解体に適している。ジャッキや圧砕機を用いる工法は騒音や振動が比較的小さく,市街地の工事では今後多用されるようになるであろう。(4)カッターの利用 コンクリートを専用ののこぎりで切断してしまうこともできる。この工法は他の工法の場合のようにコンクリートをばらばらに解体してしまわずに,部材状のコンクリート塊のまま搬出することができるという利点はあるが,いずれにしても,最終的にはこなごなに破砕しないと廃棄できないことが多いので二重手間になりやすい。(5)転倒工法 柱のついた壁の解体によく用いられる。あらかじめ,直交するはりや床を別の工法で解体して,平面状に壁,柱,はりを残し,その頂部をワイヤなどで内側から引っ張っておき,足もとの柱鉄筋を切断して転倒させる方法である。簡易な道具,機械を用いて施工できるので従来から多く用いられているが,振動が大きく粉塵も発生しやすく,また転倒時の危険性も高い。(6)火薬類による解体 岩盤の掘削には古くから火薬が用いられており,コンクリートの解体にも用いることができる。コンクリートに直径32~38mm程度の孔をあけ火薬を装てんし,爆破によって解体するものである。日本では市街地の建築物にはあまり適用しないが,アメリカやブラジルでは,10階建て以上の高層ビルを火薬で連続的に解体してしまった工事例がある。
解体工事計画
解体工法には種々のものがあり,おのおの特徴を有しているが,どの場合にも最適であるというような工法はないので,工事ごとに適した工法を選択しなければならない。また建築物の部位によって適したものと適さないものもあるので,一つの工事でもいくつかの工法を組み合わせて用いるのが一般的である。例えば,床とはりはジャッキで,内壁や柱を大型ブレーカーで解体し,そして最後に外壁を転倒工法で解体するなどの方法が用いられる。そのほかにも,ジャッキと圧砕機の組合せ,圧砕機と大型ブレーカーの組合せ,大型ブレーカーと鋼球の組合せなどが多く利用されている。
解体工事では騒音,振動,粉塵などの公害が発生するので十分な対策を講じておく必要がある。騒音に対しては,発生源となる機器や工法そのものの騒音を低減させると同時に,建築物の周辺に遮音壁を設けるのが有効である。振動の低減はそれほど容易ではないが,例えば転倒工法の場合には,転倒部分にすでに解体してこなごなになったコンクリートやゴムタイヤなどのクッション材をおくことが効果的である。粉塵を防止するには水をまくのがもっとも有効であるが,この場合,排水の計画もしておくべきである。
執筆者:松本 信二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報