強迫性障害(読み)キョウハクセイショウガイ

デジタル大辞泉 「強迫性障害」の意味・読み・例文・類語

きょうはくせい‐しょうがい〔キヤウハクセイシヤウガイ〕【強迫性障害】

強迫観念強迫行為を主な症状とする精神疾患意思に反して不快な考えが繰り返し頭に浮かび、また、不安を振り払うために同じ行動を繰り返し、生活にも支障が生じる神経症不安障害一種。治療には薬物療法カウンセリングなど。強迫神経症強迫症OCD(obsessive-compulsive disorder)。

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家庭医学館 「強迫性障害」の解説

きょうはくせいしょうがいきょうはくしんけいしょう【強迫性障害(強迫神経症) Obsessive-Compulsive Disorder】

[どんな病気か]
 自分で「こんなことを考えるのは、ばかばかしい」「気にしなくていいこと」などとわかっていながら、意志に反して浮かんでくる考え、頭から離れなくなってしまう考えを強迫観念(きょうはくかんねん)といいます。
 たとえば、夜、ドアや窓の戸締まりをして布団(ふとん)に入った後で「本当に鍵(かぎ)をきちんと掛けただろうか」、手紙を投函(とうかん)した後に「ちゃんと切手をはっただろうか」などの心配、「1たす1はなぜ2になるのだろうか」などの一般には明らかと考えられていることを、何度も何度も詮索(せんさく)してしまう、なんらかの集会などがあるときに「なにか自分がとても恥ずかしいことや失礼なことをしてしまうのではないか」「人に危害を加えてしまうのではないか」などの考えが、打ち消しても打ち消しても出てきてしまうといったものです。
 浮かんでくる考えの内容によっては、恐怖症と関連があることもあります。
 強迫観念が取り払えず、その結果として、なんらかの行為をくり返しとらざるをえないことがあります。これらの行動を強迫行為(きょうはくこうい)といいます。
 たとえば、布団に入った後で、戸締まりがどうしても心配で、何度も起きて鍵の確認をくり返したり、ドアの取っ手に触れた後に、何度も何度も手を洗ったり、自分が触れる前に必ずドアの取っ手を消毒する、横断歩道を渡る際には、必ず右足から出て自分で決めた一定の歩数で渡り終えるようにする、などです。
 くり返すうちに動作の手順が固定化してしまった場合は、儀式(ぎしき)と呼ぶこともあります。
 強迫観念や強迫行為は、程度の軽いものならば、どんな人にもみられるものです。試験の答案を提出した後で、「ちゃんと名前を書いただろうか」と心配になったり、目上の人といるときに、緊張のあまり「なにか失礼がなかっただろうか」という考えが頭から離れなかったりすることは、珍しいことではありません。また、社会のなかにも、大晦日(おおみそか)や冠婚葬祭(かんこんそうさい)などの儀式のように、多くの人が「そうしないと気がすまない」と考えている、多少の強迫性をもった行為がたくさんあります。
 しかし、強迫性障害では、これらの強迫観念、強迫行為の程度が強すぎて、かぎられたことに確認・詮索をくり返すため、ほかのことに考えが向けられなくなったり、1日に何時間も手を洗っていて、ほかのことができなくなるなど、日常生活上のエネルギーのほとんどが費やされてしまい、通常の社会生活が困難になってしまいます。また、強迫観念の「意志に反して何度も何度も不合理な考えが浮かんでくる」、強迫行為の「どうしてもくり返し、そうしないと気がすまない」という点は、本人としても苦しく、つらいものです。
●どう対応すればよいか
 強迫性障害の患者さんは、外見も話の内容も、ふつうの人と大きく異なったり、奇異であったりすることは少ないので、一見、病気にみえないことがほとんどです。しかし、強迫観念、強迫行為に苦しんでいるので、周囲の人間としては、「そんなつまらないことにこだわっていてはダメだ」などといいたくなることがあります。しかし、強迫観念、強迫行為は、「自分の意志に反して」という部分が特徴であり、やめたいやめたいと思いながら、やめられないでもっともつらい思いをしているのは、当の本人なのです。周囲の人間がその点を理解しているかいないかで、症状に影響がおよぶので、この理解がもっとも重要な点です。
 また、強迫観念が浮かんでくると、不安を解消するために、強迫行為を行なってしまう面があります。強迫行為をむりやりやめるようなことはせず、可能なかぎり受容的な目でみてあげることがたいせつです。
[治療]
 薬物療法としては、ある種の抗不安薬抗うつ薬がかなり効果があることがわかっています。近年開発の進んでいる、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ薬の効果にも期待がもたれています。また適宜、種々の精神療法も併用します。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「強迫性障害」の意味・わかりやすい解説

強迫性障害
きょうはくせいしょうがい

強迫観念にとらわれ強迫行為を繰り返してしまうために、日常生活や社会生活に支障をきたすようになる精神疾患。強迫観念とは、無意味でつまらないとわかっていながら頭から離れず、いつもとらわれてしまう思い込みをいい、強迫行為とは強迫観念を打ち消すための行為をせずにいられず、無意味と思いながら繰り返し行動に移してしまうことである。たとえば、戸締り火の元などを何度も繰り返し確認せずにはいられない、あるいは手が汚れていると思い込み、たとえ汚れていなくとも不安を感じずっと繰り返し手洗いを続ける、他人に危害を加えたと思い込んで不安になる、などである。ほかに縁起のいい、もしくは悪い数字に極端にこだわったり、物の配置や物事の手順が一定でないと不安を感じ、生活に支障が生じる場合もある。強迫行為が生活に支障をもたらすほど重症化したものが疾患として扱われ、OCD(Obsessive-Compulsive Disorder)と略称される。アメリカ精神医学会の『精神障害の診断と統計の手引き(DSM)』では、かつては不安障害に含まれていたが、第5版(DSM-5)からは独立した疾患概念として、「強迫症および関連症群」の一つに位置づけられた。また、DSM-5には神経症の疾患概念がなくなったために、強迫神経症は強迫性障害とよばれるようになった。世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD-10)では神経症は神経症性障害に分類され、強迫性障害は「神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」のカテゴリーに含まれている。またWHOでは、強迫性障害を生活上の機能障害を引き起こす10大疾患の一つにあげている。日本人の罹患(りかん)率は明らかではないが、潜在的なものも含めてかなりの数に上ると推測されている。また、その原因は明確になっていないが、潔癖症といった性格やストレスなどが考えられている。治療は薬物療法や認知行動療法などによる。

[編集部 2017年3月21日]

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知恵蔵 「強迫性障害」の解説

強迫性障害

身近なものが汚染されていないか、鍵をかけただろうか、自分や他人を傷つけてしまうのではないかなど、不快さや不安を引き起こす考えやイメージが、何度も反復する強迫観念と、過剰に洗浄したり、確認したり、また、嫌な考えを打ち消すために数を数えたりする強迫行為がある。不合理と思っても止められず、その反復性と過剰により、日常生活に支障が出る。親や配偶者を不安解消のための確認作業などに巻き込むこともある。一方、過剰に完全性を求めたり、柔軟性に欠ける道徳観を持ち、様々な規則や手順に拘泥したりする人たちを、強迫性人格障害と呼ぶ。こうした強迫心性は、不登校、摂食障害、アパシー(apathy=無気力・無関心状態)、中年期の軽症うつ病などで見られることが多く、現代の社会や教育の在り方との関連が指摘されている。

(田中信市 東京国際大学教授 / 2007年)

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