行動分析学(読み)こうどうぶんせきがく(その他表記)behavior analysis

最新 心理学事典 「行動分析学」の解説

こうどうぶんせきがく
行動分析学
behavior analysis

行動分析学とは,1930年代にスキナーSkinner,B.F.によって体系化が試みられ始めた,個体環境との相互作用を明らかにしようとする心理学の研究領域である。人間や動物の行動を研究対象として,なぜそのように行動するのか,あるいは行動しないのか原因を解明し,行動に関する法則性を見いだそうとすること,行動の原理が実際にどう働くかを記述することを指向している。行動分析学で扱われる「行動」は,生体のもつ機能の中で環境に能動的に働きかけ,環境と交渉をもつ活動であり,死人にはできない活動であるかどうかという判断を行なう「死人テスト」を通過したすべての活動とされている。すなわち,他者から観察される活動のほかにも,思考感情なども行動に含まれる一方,「~される」という受身や「~しない」という否定,「~している」という状態で表現されるものは行動には含まれない。

 行動分析学は,実験的手法を用いて行動の一般的な法則性を明らかにしようとする「実験的行動分析」,そこで得られた一般的な法則性をさまざまな場面に応用しようとする「応用行動分析」,そして行動の法則性に基づいて行動にかかわる諸問題を考察しようとする「概念分析」の三つに大別される。いずれの分析も,行動の説明に際しては,遺伝的要因による説明,過去の環境要因による説明,現在の環境要因による説明の三つのレベルを基盤としており,脳に代表される神経系の機能によって行動を説明しようとする神経生理的な説明,行動の原因は心にあるという心身二元論的な説明,能力性格などといった仮説構成体による説明をできる限り用いないところに大きな特徴がある。

 また,行動分析学の対象となる行動は,レスポンデント行動とオペラント行動の二つに大別される。レスポンデント行動respondent behaviorは,特定の刺激(無条件刺激)によって誘発される反応(無条件反応)である。すなわち,まず原因となる外界の刺激が先行して現われ,それに反応して行動が起こると考えられる(刺激強化子随伴性)。一方,オペラント行動operant behaviorは,レスポンデント行動とは異なり,時間的に後に生じた刺激(環境の変化)によって,その後にその行動の生起頻度が変化する行動である(反応強化子随伴性)。ある行動がその後の結果によって生起しやすくなったり,維持されたりする過程は強化,生起しなくなる過程は罰(弱化)とよばれ,後続する刺激が出現,増加するか,あるいは消失,減少するかの組み合わせによって四つの基本的な随伴性contingencyが存在する(正または負の強化,正または負の罰)。この際,出現,増加することによって行動が生起,維持し,消失,減少することによって行動が生起しなくなる刺激は正の強化子(好子),逆に,出現,増加することによって行動が生起しなくなり,消失,減少することによって行動が生起,維持する刺激は負の強化子(嫌子)とよばれる。そして,特定の状況や手がかりのもとで生じている行動随伴性(先行刺激-行動-後続刺激)は三項随伴性three-term contingencyとよばれ,行動分析学においては,この随伴性制御(弁別,般化を含む)に主要な関心がもたれる。

 また,行動分析学では,人が用いることばも「言語行動」として位置づけ,同じ共同体に属する他のオペラント行動を介した強化によって形成,維持されているとし,他の行動と同様に,その形態ではなく,環境変数との関係のあり方(機能)ととらえている。そして,強化随伴性を記述した言語刺激をルール,ルールに制御される非言語的な反応をルール支配行動とよび,環境との相互作用の際に日常的に用いられる言語行動の影響性を体系的に記述し,制御しようとする試みも数多くなされている。 →行動修正 →認知行動療法
〔嶋田 洋徳〕

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