語り部(読み)かたりべ

改訂新版 世界大百科事典 「語り部」の意味・わかりやすい解説

語り部 (かたりべ)

大嘗祭(だいじようさい)に〈古詞〉を奏した部民(べみん)。平安朝の記録(《貞観儀式》《延喜式》など)によると,天皇の即位儀礼である大嘗祭のおり,美濃但馬,出雲,因幡丹波丹後淡路諸国から計28人の語り部が召され,〈古詞〉を奏していた。祝詞(のりと)に似たかたりごとで,一部は歌曲風でもあったという(《北山抄》)。同時に吉野国栖(くず)が〈古風〉を,悠紀(ゆき)の国(大嘗祭の時,神事に用いる酒料,新穀などを献ずる国)の歌人が〈国風〉を奏した。ともに地方の風物にことよせた寿歌で,その奏上は服属の誓いを意味した。〈古詞〉の具体的内容は不明だが,同様の意義をもっていたのであろう。古い実態は不明だが,律令国家成立前から存在した部民で,語造(かたりのみやつこ),語臣などの地方豪族に率いられつつ,儀礼の際には地方伝承を奏していた農民たちである。ひところ語り部は口誦伝承をたずさえた巡遊神人だとか,《古事記》は彼らに暗誦されていたとかいわれたが,疑問である。《古事記》にみえる神語(かむがたり)歌,天語(あまがたり)歌などの長い歌謡は参照するにたるが,〈古詞〉との関係ははっきりしていない。
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百科事典マイペディア 「語り部」の意味・わかりやすい解説

語り部【かたりべ】

古代,文字のなかった時代に語り伝えられて来た神話・歴史・伝承等を口誦で語り伝えることを職掌としていた人々,ないし集団。日本の古代では,各地の首長の下に隷属した部民(べみん)であった。平安時代には大嘗祭などの儀式のときに,諸国から召集されて〈古詞〉を奏した。〈古詞〉は祝詞(のりと)に似たかたりごとで,一部は歌曲風であったという。《古事記》を誦習した稗田阿礼(ひえだのあれ)も語り部に類する存在であったと推測される。

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