デジタル大辞泉 「祝詞」の意味・読み・例文・類語
のっ‐と【祝=詞】
1 能で、神仏に
2 歌舞伎下座音楽の一。神仏に
3 「のりと」に同じ。
「宮人にてましまさば―を参られ候へ」〈謡・蟻通〉
( 1 )上代では「ふとのりと」、または「ふとのりとごと」の語形で見られるだけである。中古・中世には「のと」「のっと」の形で現われる。「のり」は「宣(の)る」の連用形と見られるが、意味は「のろう」に関係づけられる。「と」は、所の意といい、また、「ことど」の「ど」と同じく、呪言の意とする説がある。
( 2 )文体は和文体を基調とし、いわゆる宣命書きによる表記がなされる。
神前に奏上する詞(ことば)。その内容は、祭りにより、場所により異なる。祝詞文の構成は、起首、由縁、献供、祈願または感謝、結尾などの章句からなるものが多いが、このほかにも神徳、装飾、奉仕、祝頌(しゅくしょう)などの章句を用いたものもある。ノリトはノリトゴト(祝詞事)の略言である。ノリトの語義については諸説あるが、ノリは上位者から下位者に言い渡すことであり、トは上にある表現を体言化するように働く。神や霊に対して申し上げる祝詞の文体は、「……と白(まを)す」(申す)と結ぶことから、これを「申す型」(奏上体)という。今日の祝詞は、そのほとんどがこの型であるが、その場にいる者に対して、宣(の)り聞かせる形式もあり、これは「……と宣る」と終わることから、「宣る型」(宣下体)という。この型は大祓詞(おおはらえのことば)に継承されている。今日奏されている祝詞の基本は、『延喜式(えんぎしき)』巻第八(祝詞式)に収録されている27編の祝詞で、これを「延喜式祝詞」という。これらの祝詞がつくられた年代は、祝詞が奏された祭祀(さいし)の歴史と軌を一にするものであるから、27編の祝詞が同時につくられたのではない。また、それぞれに変遷もあったであろうが、平安時代にまとめられたのが「延喜式祝詞」であり、これらはわが国の古典文学作品としても高く評価されている。「延喜式祝詞」以降も、今日まで多くの祝詞がつくられているが、文体、語彙(ごい)など、いずれも式祝詞を踏襲したものが多い。
[沼部春友]
祭儀のときに唱えられる詞章。「のりと」の「のり」は「のる(宣る)」から出たものであり、「のる」という宗教的実修における詞章を意味している。各時代を通じて行われてきたが、文学史においてはとくに『延喜式』巻八に収められている朝廷の祭儀の際の27編(うち一つは漢文)と『台記(たいき)』「別記」に伝える「中臣寿詞(なかとみのよごと)」一編とに限定していうのが普通である。『延喜式』は延喜5年(905)に編纂(へんさん)を開始したが、巻八に収められた祝詞は、そのおよそ100年ほど前、9世紀の初めにはほぼ固定していたとみられる。神祇(じんぎ)官において祭りを執り行い、また神宮や神社で祭りを執り行うときに唱えられる詞章として固定したものである。ただ、個々の詞章の成立には幅があり、7世紀から9世紀初めにわたる可能性があるとみられる。
内容としては、神前に集まった人々や神職などに「諸聞(もろもろきこ)しめせと宣(の)る」と宣下する型のものと、「称辞竟(たたへごとを)へまつらくと白(まを)す」と奏上する型のものとに大別される。構成は、祭儀の由来を述べる部分と祭事の執行を述べる部分とからなる。表現には、列挙、反復、対句などを多く用いるが、そこには、文字以前の口誦(こうしょう)の段階で形づくられた表現をうかがうことができる点で注目される。口誦の表現の様式として、「朝(あした)には御門(みかど)を開きまつり、夕べには御門を閉(た)てまつりて、疎(うと)ぶる物の下より往(ゆ)かば下を守(まも)り、上より往かば上を守り、夜(よ)の守り日の守りに守りまつる」(「祈年祭」)のごときをみることができよう。
[神野志隆光]
『武田祐吉他校注『日本古典文学大系1 古事記・祝詞』(1958・岩波書店)』
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神事に奏する詞。ノリトはノリトゴト(詔刀言,能里等其等,祝詞事,祝詞辞,法刀言)の略言。また,ノト(ノリトの略言),ノット(ノリトの音便),ノトゴト(ノリトゴトの略言)ともいった。ノリトゴトの語義については諸説あるが,代表的なものとしては,宣説言(のりとごと)(本居宣長),御卜言(みうらごと)すなわち占兆解言(ふとのりとごと)(敷田年治),宣処言(のりとごと)(折口信夫)などがある。祝詞は,こんにちでは一般に神に奏上するものとされているが,もとは神から発せられた詞と考えられていた。日本古代では《万葉集》に〈言霊(ことだま)の幸(さき)はふ国〉とも〈言霊の助くる国〉とも記されているように,言葉に霊力があると信じられてきた。だから,祝詞は単なる意志伝達の道具ではなく,霊力のはたらきがあるものと信じられたのであろう。古い祝詞は《延喜式》巻八に27編が収録されており,これらの祝詞は文学史上でも重要である。祝詞の文体は,宣読者が諸人に対して宣り聞かせる〈宣る型〉と,神前に奏上する〈申す型〉とに大別され,その文章の内容をみると,起句,由縁,神徳,装飾,奉仕,献供,祈願,感謝,祝頌,結尾などの章句によって構成されている。また,宮中祭祀では,天皇が奏するものを〈御告文(おつげぶみ)〉,勅使(ちよくし)が奏するものを〈御祭文(ごさいもん)〉(もとは宣命(せんみよう)といった),神社祭式では,斎主(さいしゆ)が奏するものを祝詞,献幣使が奏するものを祭詞という。
執筆者:沼部 春友
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神事・祭礼の際に神に対して唱える言葉。寿詞(よごと)・祓詞(はらえことば)も含めることが多い。「宣(の)る」に呪的なものにつける接尾語の「と」がついたのが語源と考えられる。「古事記」の出雲の国譲り神話からみえ,「延喜式」には朝廷の祭祀にかかわる27編が収録されており,天皇の健康や五穀豊穣を祈る,天下の穢(けがれ)を祓う,祭礼に際して神社の神前で奏上される,など性格は多様である。作成年代も古くは7世紀後半と広範にわたる。文体は助詞・助動詞などを万葉仮名で小さく記す宣命体(せんみょうたい)で,料紙は奉書紙・杉原紙などの白の和紙が多く用いられたが,勅使参向の場合には伊勢は縹(はなだ),賀茂は紅,その他は黄色を用いた。内容は,祭神の由緒や神徳に始まり,神饌(しんせん)・幣帛(へいはく)の奉納,そのあとに祈願を記した。
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…言霊の信仰によることばの使用は,ことばを積極的に使って言霊をはたらかせようとする考えと,ことばの使用をつつしんだり避けたりする考えと,二つの面に分かれる。神に祈るのに祝詞(のりと)をとなえたり,よい結果を求めるために祝言をのべたりするのは,言霊のはたらきを期待しているのである。ひとの名を秘めるべきものとしたり,忌詞(いみことば)を使ったりするのは,言霊のはたらきを警戒して,ことばの使用をつつしむのである。…
…準備が整うと,聖なる時間である深夜に,あらかじめ用意された依代(よりしろ)・尸童(よりまし)に神を降して,神前に御饌(みけ)・神酒(みき)が供され,歌や舞が神をもてなすために行われる。人々は神に対する願いを祝詞(のりと)や歌などで伝え,神は託宣やさまざまな卜占によって神意を示す。その後,神々と人々とがともに酒を飲み,御饌を食べる直会(なおらい)によって,神と人とのつながりをたしかめて,神々が祭りの場を去ると,禁忌が解かれて祭りは終わる。…
…いわゆる言霊(ことだま)信仰に支えられて寿(ことほ)ぎ祝う言葉である。広義には《古事記》《日本書紀》の〈ほき歌〉や〈酒楽(さかほかい)の歌〉のごとき歌や,《古事記》の櫛八玉(くしやたま)神の〈御饗寿き(みあえほき)の詞(ことば)〉や《日本書紀》顕宗天皇条の〈室寿き(むろほき)の詞〉のような詞を含めるが,狭義には《延喜式》巻八〈祝詞〉所収《出雲国造神賀詞(いずものくにのみやつこのかむよごと)》と,藤原頼長の《台記別記》所収の1142年(康治1)奏上の《中臣寿詞(なかとみのよごと)》との2編をさしていう。前者は出雲の神々の祝福の言葉を国造が奏上し,後者も《神祇令》に〈凡(およ)そ践祚(せんそ)の日,中臣天神の寿詞を奏す〉とあるように,神の祝福の言葉を中臣氏が奏上した。…
※「祝詞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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