祝詞
のりと
神前に奏上する詞(ことば)。その内容は、祭りにより、場所により異なる。祝詞文の構成は、起首、由縁、献供、祈願または感謝、結尾などの章句からなるものが多いが、このほかにも神徳、装飾、奉仕、祝頌(しゅくしょう)などの章句を用いたものもある。ノリトはノリトゴト(祝詞事)の略言である。ノリトの語義については諸説あるが、ノリは上位者から下位者に言い渡すことであり、トは上にある表現を体言化するように働く。神や霊に対して申し上げる祝詞の文体は、「……と白(まを)す」(申す)と結ぶことから、これを「申す型」(奏上体)という。今日の祝詞は、そのほとんどがこの型であるが、その場にいる者に対して、宣(の)り聞かせる形式もあり、これは「……と宣る」と終わることから、「宣る型」(宣下体)という。この型は大祓詞(おおはらえのことば)に継承されている。今日奏されている祝詞の基本は、『延喜式(えんぎしき)』巻第八(祝詞式)に収録されている27編の祝詞で、これを「延喜式祝詞」という。これらの祝詞がつくられた年代は、祝詞が奏された祭祀(さいし)の歴史と軌を一にするものであるから、27編の祝詞が同時につくられたのではない。また、それぞれに変遷もあったであろうが、平安時代にまとめられたのが「延喜式祝詞」であり、これらはわが国の古典文学作品としても高く評価されている。「延喜式祝詞」以降も、今日まで多くの祝詞がつくられているが、文体、語彙(ごい)など、いずれも式祝詞を踏襲したものが多い。
[沼部春友]
祭儀のときに唱えられる詞章。「のりと」の「のり」は「のる(宣る)」から出たものであり、「のる」という宗教的実修における詞章を意味している。各時代を通じて行われてきたが、文学史においてはとくに『延喜式』巻八に収められている朝廷の祭儀の際の27編(うち一つは漢文)と『台記(たいき)』「別記」に伝える「中臣寿詞(なかとみのよごと)」一編とに限定していうのが普通である。『延喜式』は延喜5年(905)に編纂(へんさん)を開始したが、巻八に収められた祝詞は、そのおよそ100年ほど前、9世紀の初めにはほぼ固定していたとみられる。神祇(じんぎ)官において祭りを執り行い、また神宮や神社で祭りを執り行うときに唱えられる詞章として固定したものである。ただ、個々の詞章の成立には幅があり、7世紀から9世紀初めにわたる可能性があるとみられる。
内容としては、神前に集まった人々や神職などに「諸聞(もろもろきこ)しめせと宣(の)る」と宣下する型のものと、「称辞竟(たたへごとを)へまつらくと白(まを)す」と奏上する型のものとに大別される。構成は、祭儀の由来を述べる部分と祭事の執行を述べる部分とからなる。表現には、列挙、反復、対句などを多く用いるが、そこには、文字以前の口誦(こうしょう)の段階で形づくられた表現をうかがうことができる点で注目される。口誦の表現の様式として、「朝(あした)には御門(みかど)を開きまつり、夕べには御門を閉(た)てまつりて、疎(うと)ぶる物の下より往(ゆ)かば下を守(まも)り、上より往かば上を守り、夜(よ)の守り日の守りに守りまつる」(「祈年祭」)のごときをみることができよう。
[神野志隆光]
『武田祐吉他校注『日本古典文学大系1 古事記・祝詞』(1958・岩波書店)』
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祝詞【のりと】
神道の祭典のとき,神に奏上する言葉。《古事記》では詔戸詞(のりとごと),《日本書紀》では諄辞と記す。語義には諸説あるが,本居宣長の説いた天子の〈宣(の)り説く〉言葉とするのが普通。それが天子が神格化されていく過程で,天子と神の言葉を同一視し,神の授けた言葉として伝承したとされる。最古のものは《延喜式(えんぎしき)》巻8の27編(うち1編は漢文)と藤原頼長の《台記別記》収録の1編である。祝詞が宣下(せんげ)であるのに対し,反奏するのが寿詞(よごと),精霊を鎮めるのが〈いわいごと〉である。祝詞は和文で書かれ,後の宣命書(せんみょうがき)の先駆となった。《延喜式》の祝詞は祈年祭,大祓(おおはらえ)などに用いられるが,典拠は古代のもののままではないとされる。現在行われる祝詞は,祭典の趣旨・目的などを述べ,神に奏上することによって神の受諾を願う,神道祭式の重要な要件の一つになっている。
→関連項目語り部|ことほぎ|地鎮祭|中臣祓|吏読
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のり‐と【祝詞】
〘名〙 神をまつり神を祈る時、神に向かって唱える古体の独特の文体を持ったことば。広く「祓(はら)え」に読むことばや寿詞(よごと)などを含めていう。現存する最古のものは「延喜式」巻八所収の二七編と、藤原頼長の日記「台記」所収の中臣寿詞(なかとみのよごと)一編で、普通これらをさしていう。しゅくし。のっと。のとごと。のと。ふとのりと。のりとごと。
※書紀(720)天智九年三月(北野本訓)「中臣金連、祝詞(ノリと)を宣(の)る」
[語誌](1)
上代では「ふとのりと」、または「ふとのりとごと」の語形で見られるだけである。中古・
中世には「のと」「のっと」の形で現われる。「のり」は「宣
(の)る」の連用形と見られるが、意味は「のろう」に関係づけられる。「と」は、所の意といい、また、「ことど」の「ど」と同じく、
呪言の意とする説がある。
(2)文体は
和文体を
基調とし、いわゆる宣命書きによる表記がなされる。
のっ‐と【祝詞】
〘名〙 (「のりと(祝詞)」の変化した語)
※鎌倉殿中以下年中行事(1454か)正月二三日「御幣を神主被二請取一、のっとを申て、手を三度打時、御下向ある也」
② 能楽で、神に祝詞(のりと)としてささげる文句の謡(うたい)。また、その謡に伴奏する囃子(はやし)の名。
③
歌舞伎の下座音楽の一つ。能楽の囃子を長唄の囃子に転用したもので、神仏に祈祷する時などに大小鼓と能管とで打ちはやす。
※歌舞伎・
御摂勧進帳(1773)五立口「ト、のっとになり皆々舞台へ出る」
しゅく‐し【祝詞】
〘名〙
① 神に祈ることば。のりと。〔祭汾陰楽章‐粛租〕
② (━する) 祝賀の意を述べること。また、祝儀の席で述べる祝いのことばや文章。
祝辞。祝文。
※壒嚢鈔(1445‐46)五「女踏歌と申は、大方京師の遊士の声能て物歌ふを召て、年の始の祝詞を作て歌はせ」
※譬喩尽(1786)五「焼驕(やけぼこり)目出度とて衣類に飛火して焼るを祝詞(シュクシ)す」
のっ‐とう【祝詞】
〘名〙 「のりと(祝詞)」の変化した「のっと」がさらに変化した語。
※虎明本狂言・のっとうかぐら(室町末‐近世初)「まさごをとってさんまいとし〈略〉のっとうをこそ申けれ」
の‐と【祝詞】
※宇津保(970‐999頃)菊の宴「御舟毎にのと申して、一度に御はらへする程に」
しゅう‐し シウ‥【祝詞】
〘名〙 (「しゅうじ」とも) 祝賀を述べることば。いわいのことば。また、それを書きしるした文。賀詞。祝辞。しゅくし。〔文明本節用集(室町中)〕
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祝詞
のりと
祭祀にあたって神前で称える詞章。現在でも祭祀のときにつくられるが,文学史のうえでは,通常『延喜式』巻8所収の 27編 (「東文忌寸部献横刀時呪〈やまとのふみのいみきべのたちをたてまつるときのじゅ〉」を除く説もある) ,巻 16所収の「儺祭 (なのまつり) 文」 (これを除く説もある) ,『台記』所収の「中臣寿詞 (なかとみのよごと) 」をさす。国家的祈願や感謝を主要な内容とし,おおむね祭祀の起源や祭神に関する神話を述べる部分と幣帛 (へいはく) を奉り祈願,感謝する部分とから成る。その表現は宣命書 (せんみょうがき) という形式をとり,韻律に富み,対句,畳句,反復,列挙が多く用いられ,荘重ではあるが反面抽象的,類型的。文学的な面では,表現の荘重さとともに,その感情の純粋性,清浄さ,崇高さ,雄大さなどが指摘され,また文学発生の一源泉として重視する説もある。
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祝詞
のりと
神を祭るとき,神に告げる言葉
祝詞・寿詞 (よごと) ・祓詞 (はらいことば) などの総称。成立は奈良時代以前といわれ万葉仮名を用いた独特の文体・用語。平安時代の『延喜式』には祈年祭以下の諸祭の祝詞を27編おさめる。天皇即位後の大嘗祭には中臣氏が寿詞を奏上するならわしであった。
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デジタル大辞泉
「祝詞」の意味・読み・例文・類語
のっ‐と【祝=詞】
《「のりと」の音変化》
1 能で、神仏に祝詞として捧げる謡。また、その初めに奏する囃子。
2 歌舞伎下座音楽の一。神仏に祈祷するとき、大鼓・小鼓・能管で奏する。
3 「のりと」に同じ。
「宮人にてましまさば―を参られ候へ」〈謡・蟻通〉
のり‐と【祝‐詞】
儀式など改まった場面で、神を祭り、また、神に祈るときに神前で唱える古体の言葉。現存する最古のものは「延喜式」所収の27編と、藤原頼長の日記「台記」所収の中臣寿詞1編。のっと。のと。のりとごと。「祝詞を上げる」
の‐と【祝=詞】
《「のっと(祝詞)」の促音の無表記》「のりと」に同じ。
「御舟ごとに―申して、一たびに御はらへする程に」〈宇津保・菊の宴〉
しゅう‐し〔シウ‐〕【祝詞】
祝いの言葉。祝辞。しゅくし。
「末広に―を籠めて」〈一葉・うもれ木〉
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のりと【祝詞】
神事に奏する詞。ノリトはノリトゴト(詔刀言,能里等其等,祝詞事,祝詞辞,法刀言)の略言。また,ノト(ノリトの略言),ノット(ノリトの音便),ノトゴト(ノリトゴトの略言)ともいった。ノリトゴトの語義については諸説あるが,代表的なものとしては,宣説言(のりとごと)(本居宣長),御卜言(みうらごと)すなわち占兆解言(ふとのりとごと)(敷田年治),宣処言(のりとごと)(折口信夫)などがある。祝詞は,こんにちでは一般に神に奏上するものとされているが,もとは神から発せられた詞と考えられていた。
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世界大百科事典内の祝詞の言及
【言霊】より
…言霊の信仰によることばの使用は,ことばを積極的に使って言霊をはたらかせようとする考えと,ことばの使用をつつしんだり避けたりする考えと,二つの面に分かれる。神に祈るのに祝詞(のりと)をとなえたり,よい結果を求めるために祝言をのべたりするのは,言霊のはたらきを期待しているのである。ひとの名を秘めるべきものとしたり,忌詞(いみことば)を使ったりするのは,言霊のはたらきを警戒して,ことばの使用をつつしむのである。…
【神道】より
…準備が整うと,聖なる時間である深夜に,あらかじめ用意された依代(よりしろ)・尸童(よりまし)に神を降して,神前に御饌(みけ)・神酒(みき)が供され,歌や舞が神をもてなすために行われる。人々は神に対する願いを祝詞(のりと)や歌などで伝え,神は託宣やさまざまな卜占によって神意を示す。その後,神々と人々とがともに酒を飲み,御饌を食べる直会(なおらい)によって,神と人とのつながりをたしかめて,神々が祭りの場を去ると,禁忌が解かれて祭りは終わる。…
【寿詞】より
…いわゆる言霊(ことだま)信仰に支えられて寿(ことほ)ぎ祝う言葉である。広義には《古事記》《日本書紀》の〈ほき歌〉や〈酒楽(さかほかい)の歌〉のごとき歌や,《古事記》の櫛八玉(くしやたま)神の〈御饗寿き(みあえほき)の詞(ことば)〉や《日本書紀》顕宗天皇条の〈室寿き(むろほき)の詞〉のような詞を含めるが,狭義には《延喜式》巻八〈祝詞〉所収《出雲国造神賀詞(いずものくにのみやつこのかむよごと)》と,藤原頼長の《台記別記》所収の1142年(康治1)奏上の《中臣寿詞(なかとみのよごと)》との2編をさしていう。前者は出雲の神々の祝福の言葉を国造が奏上し,後者も《神祇令》に〈凡(およ)そ践祚(せんそ)の日,中臣天神の寿詞を奏す〉とあるように,神の祝福の言葉を中臣氏が奏上した。…
※「祝詞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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