誤嚥性肺炎を予防する口腔清掃

六訂版 家庭医学大全科 の解説

誤嚥性肺炎を予防する口腔清掃
(歯と歯肉の病気)

 脳卒中などの病気で体力の弱った高齢者のかかりやすい病気に、肺炎があります。しかし、その肺炎は、大気に飛び交っている細菌だけが原因ではなく、自分自身の口腔内(こうくうない)(口のなか)に存在する細菌を、呼吸している最中に肺に吸引することにより発病してしまう場合もあるのです。これは、誤って嚥下(えんげ)(飲み込むこと)することによる肺炎なので、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)と呼ばれるものです。日本人の死因の第4位に肺炎がありますが、事実、高齢者の肺炎のうち、30%以上は誤嚥性肺炎であるといわれています。

 普段からきちんと食事をし、よく会話をされているような方は、それ自体が口腔自浄作用(じじょうさよう)となり、また体に抵抗力もありますから、誤嚥性肺炎はほとんど心配ありません。しかし、ひとたび体力が落ちたり、口から食べることができずに、車椅子やベッド上で点滴の管理をされたりしているような場合には、誤嚥性肺炎にかかる率は高くなります。

 そのような方の口腔内は、舌には舌苔(ぜったい)(舌に発生した苔のような汚物)、口蓋(上顎粘膜)には新陳代謝の行われない粘膜の上皮がオブラート状に残った状態が観察されます(図63図64)。これらは、まさに細菌の巣です。歯に付着している細菌数よりも、舌や口蓋に生息している細菌数のほうがむしろ多いのです。

 したがって、誤嚥性肺炎を予防するための口腔清掃は、通常の歯や歯肉の清掃に加えて、舌や口蓋の清掃(粘膜ケア)を欠かさずしていただきたいと思います(図65)。清掃にあたっては、スポンジブラシや、粘膜ケア専用の柔らかいナイロンブラシが市販されています。ブラッシングの刺激により唾液分泌が促され、乾燥した口腔内は潤いを取り戻します。

 さらに、たとえ点滴管理であっても、医療的判断のもと1日1口だけでけっこうですから、ゼリーなどを咀嚼(そしゃく)嚥下(えんげ)してもらうと、口腔機能の自浄作用が活性化され、誤嚥性肺炎予防に大きな効果をもたらします。


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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