死亡をきたした原因。大きく直接死因と間接死因とに分けることができる。前者は,死亡を直接にひきおこした原因であり,脳,心臓,肺臓など生命の維持に必須の器官の疾病や損傷,またはこれらの器官に重大な影響を及ぼした病変等である。また間接死因は,他の死因を2次的に誘発し,結果的に死を招いた場合で,脳内出血死における高血圧症などがこれに相当する。いずれにせよ,死因として掲げられるためには,明確な医学的因果関係がなりたつことが必要である。このように死因は,必ずしも一つに限定されるものとは限らず,しばしば複数にまたがることがあるが,その場合,最も基礎となり死に至るきっかけとなった死因(たとえば,前立腺肥大症で尿閉を起こし尿毒症で死亡した場合の,前立腺肥大症)を原死因という。一般に,死因統計などは,この原死因を集計して作成する。疾病の予防を図り,対策を講じるに当たっては,根本原因としての原死因に焦点を絞らないかぎり,効果が期待できないからである。死因を明らかにする意義として,次の三つが考えられる。(1)死因統計や人口動態統計の資料 各国の政府は,それぞれ自国民の死因に関する統計を作成して,国民の健康や福祉の増進に役立てている。またWHO(世界保健機関)では,加盟国からの報告を集計して,国際協力の重要な基礎資料としている。(2)医学の進展のため 個体の死亡に際して死因を明確にしておくことは,診断技術や治療法の向上,さらには疾病予防の確立にとって貴重なデータとなる。(3)司法や行政への医学的協力 ある死亡が,それに関する責任の追及など法的に問題となりうる場合には,積極的に死因を解明して,法の公正な適用を期する必要がある。また公衆衛生上の見地から,行政側に正確な死因の情報を提供する意義もある。
死因を示す場合には,症状名(たとえば呼吸困難や心不全など)を掲げることは避け,傷病名を用いることになっている。この際,傷病名の選択は,国際疾病分類International Classification of Diseases(略称ICD)によることを原則としている。これは,WHOの憲章に基づいて規定されたもので,1900年フランスの提唱により定められて以来,約10年ごとに改正されている。死因は通常の場合,診療の場において,死亡した患者の生前の症状や検査所見などに基づいて医師が判定するものであるが,疾病の診断法や治療法の進展あるいは不審な死亡状況の解明などを目的として,より正確な死因を明らかにしておく必要のある場合には解剖を行う。これには病理解剖や法医解剖がある。
死因(死亡の原因)とは別に,〈死因の種類〉というものがある。これは,死因が死亡を医学的な因果関係の面からとらえるのに対し,死亡に際しての状況や様態の観点(たとえば自・他殺とか災害死など)から分類するものである。したがって,死因を死亡の医学的分類とするならば,死因の種類は社会的分類ということができる。日本では,死亡診断書や死体検案書において,自然死,自殺,他殺など12種に分類している。日本における主要死因は近年ほぼ一定で,いわゆる三大死因は永らく,脳卒中(脳血管疾患),癌(悪性新生物),心臓病(心疾患)の順であった。このうち,脳卒中による死亡率が低下する反面,癌の上昇が著しく,1981年に至り,ついにこの上位2者は入れ替わり,5位までの死因順位は,(1)癌,(2)脳卒中,(3)心臓病,(4)肺炎・気管支炎,(5)老衰となった。脳卒中の減少は,国際的な研究の進展と健康診断の普及によるとされる。なお近年,心臓病による死亡率が着実に増えていることは注目すべき現象で,今後もこの傾向は続くものと思われる。また不慮の事故死が増加して第5位を占めるにいたっており,複雑化した世相を反映している。
執筆者:福井 有公
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
生命維持に必要な脳、循環、および呼吸の諸機能が全面的に不可逆的停止をきたすとき、その原因となった傷病名や症候群名を死因とよび、死亡原因ともいう。複数の損傷または疾病があったり、損傷と疾病が組み合わされたり、二つ以上の医薬品が用いられて、ともに薬物ショックをおこす誘因となる場合などでは、死因は複雑となる。1967年、世界保健機関(WHO)では、死亡診断書に記載される死因とは、「死亡を引き起こし、またはその一因となったすべての疾病、病態、もしくは損傷、およびこれらの損傷を引き起こした事故、もしくは暴力の状況」と定義している。これは、死亡に関与したすべての事項を死亡診断書に記載することを目的としたものである。
死亡に直接関係した死因を直接死因、死亡に影響を及ぼしたと思われる身体状況(併存症、持病など)を間接死因とよぶ。現行の医師法施行規則で定められた死亡診断書、および死体検案書では、直接の死因を第一に、次に医学的に因果関係のあったと考えられる死因を書くことが要請されている。死因としての傷病名は、わが国の医学界で通常用いられている傷病名を用い、心臓麻痺(まひ)や衰弱のような、死亡時に一般的に共通する症状名は含まない。法医学領域では、複数の損傷あるいは病変があり、これらが単独で死因となりうるとき、死因は「競合関係にある」という。この場合、優先性をもつ損傷や病変が死因と決定されるが、加害者が複数である場合は、死に対して各個人がいかなる責任をとるかが重要な問題となる。病死の死因を明らかにすることは、病気の性質、治療方法の発見・改良のうえからたいせつであり、病死以外の不自然死(傷害、中毒、縊頸(いけい)や絞頸などの窒息、その他)にあっては、その責任の所在の究明に向けての資料として、死因が重要なものとなる。日本では結核が長らく死因の上位を占めていたが、最近は悪性新生物、脳血管疾患、心疾患の順位である。なお死亡統計では、傷病の経過からみて出発点となった傷病(原死因)で統計をとることになっている。
[澤口彰子]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…厚生省は死亡に関する統計を作成し,国民の健康・福祉に関する基礎資料として月報(概数)および年報(確定数)として公表している。死亡診断書(死体検案書)に記載された死因は,世界保健機関(WHO)加盟国では,〈国際疾病傷害および死因分類(ICD)〉に従って原死因で分類され,国際間の死因の比較検討ができるようにされている。したがって,医師は死亡診断書(死体検案書)の死因欄には医学界で用いられている傷病名を詳細に記入することが求められている。…
…ギリシア時代,すでにヒッポクラテスは,未熟児の母体外での生存能力について記述を残し,アリストテレスは,母体の妊娠期間について論じている。ローマ時代になると医師アンティスティウスは,暗殺されたユリウス・カエサルの死体について,23ヵ所の損傷のうち,胸部への第2傷が死因であると判定した。すなわち,複数損傷における致命傷の鑑定である。…
※「死因」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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