翻訳|mimeograph
謄写版原紙と呼ばれる薄い特殊な紙に小さい穴をあけ,この穴から印刷インキを押し出して印刷する方法。孔版方式の代表的なもので,俗に〈ガリ版〉ともいう。19世紀末,アメリカのエジソンが蠟を塗った紙に電気で振動するペンで細かい穴をあけ,版とする方法を考案したのが最初といわれる。日本では,1894年堀井新治郎が蠟引きした原紙をやすり上におき,鉄筆で書いて製版する方法を発明,謄写版と名づけ,以後大衆的謄写印刷はいろいろな工夫が加えられ広く利用されるようになった。製版法としてやすりと鉄筆による手書製版のほか,タイプライターによる打字製版が大正の末年ころから行われはじめ,第2次大戦後,5号,9ポ,8ポなどの小型活字のタイプライターが現れたこと,孔版タイプ用中性インキの出現などによって字画の鮮鋭な印刷ができるようになり,事務的な謄写印刷などに広く利用されるようになった。
手刷りの印刷機はふつう謄写版と呼ばれるもので,紙をおく台の一端に絹のスクリーンを張った枠を開閉できるようにとりつけ,これに製版した原紙を張り,スクリーンの上からインキローラーをころがして印刷する。輪転謄写機stencil duplicatorは日本では1910年堀井新治郎が製造したのが最初で,その後イギリスのゲステットナー輪転機などが輸入され,国産機も性能が向上し,官公庁,会社などに相当の普及をみた。輪転謄写機はスクリーンを張った円筒に原紙を張り,円筒の回転で印刷されるもので,インキは円筒の内側から供給される。電動式と手まわし式があり,前者は毎分最高150枚程度の印刷ができる。謄写版原紙は製版の方式によって異なり,鉄筆用は雁皮紙にパラフィン加工をしたもの,タイプ用は典具帳にコロイド性のパラフィン質液を塗布したものである。謄写版は素人にも容易にできる簡易印刷のもっとも普及したものであるが,複写機の発達,電子製版機と簡易小型オフセット機の発達により衰微しつつある。
執筆者:山本 隆太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
同一の文書や書類など、多数筆写の手間を省くために用いる簡便な孔版印刷機。「ガリ版」ともいわれ、一般の印刷とは区別されている。製版は、ろう原紙またはタイプ原紙に、やすりの上で鉄筆を用いて書いたり、あるいはタイプで印字することにより孔版する仕組みである。技術の改良が進み、多色印刷や写真孔版までつくることができるようになり、さらに活版やオフセット印刷とも変わらない字画の鮮明な印刷ができるようになった。
印刷機は大別して、ローラー式(平版式)謄写版と輪転式謄写機に分けられる。ローラー式は、原紙を枠に張り、その上からインキを含ませたローラーでなでて、下部にセットした紙に印刷する方式のものである。輪転式は、卓上型や手動式のほか、電力で稼動させる電動式がある。また形式では、1本の胴筒をもつ単胴型と、2本の円筒をもつ複胴型の2種があり、インキ補給方式によっても遠心力利用方式、塗布方式、インキ練り双胴方式などがある。ローラー式は古くから使われていたが、輪転式は1900年にイギリスの玩具商デビッド・ゲステットナーが複胴式のものを発明したのが最初である。単胴式は1901年にアメリカの文具商A・B・ディックによってつくられた。日本では1910年(明治43)に、東京の堀井謄写堂から単胴型第1号が発売されたのが最初である。
[野沢松男]
日本においては、ワープロの出現、その後のパソコンによる簡易印刷の発達、そしてコピー機の普及などで謄写版の使用は急減し、1980年代後半にはほとんどみられなくなった。一方、アフリカやアジアなどでは、いまだに電気の通じない地域が多くあり、それらの地域では謄写版が活用されている。
[編集部]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 図書館情報学用語辞典 第4版図書館情報学用語辞典 第5版について 情報
… 孔版は,型染の原理と同じく,ステンシル(型紙)を枠に張りインキを押し出して型通りの模様を紙に移す方法である。謄写版とシルクスクリーン印刷がこれに属する。謄写版はアメリカのT.エジソンが19世紀末に発明したが,日本の堀井新治郎が蠟引き紙に鉄筆で穴あけする方法を発明して以来,事務印刷として重宝がられた。…
…版画や印刷の技法で,孔版(合羽版,謄写版)の一種。セリグラフィーserigraphyともいう。…
※「謄写版」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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