改訂新版 世界大百科事典 「議会委員会制」の意味・わかりやすい解説
議会委員会制 (ぎかいいいんかいせい)
近代立憲国家において,議会は,立法権をはじめとする重要な諸権能をもち,程度の差こそあれ,国政機構のなかで大きな役割を演ずるが,国政事項が量的に増大すると同時に質的にも専門化してくるにつれ,全部の議員が参加する本会議にかわって,委員会による審議が実質的に大きな意味をもつようになってきた。議会におけるこのような審議のしくみを議会委員会制という。
アメリカ
委員会中心主義の典型はアメリカ合衆国である。《議会政治Congressional Government》(1885)を書いたW.ウィルソンはすでに,委員会を〈小立法部〉と呼び,下院の指導者は議長ではなく,おもな常任委員会の委員長たちであり,しかも彼らは内閣のような協同体を構成しないから,指導部の多頭性によって下院の組織はきわめて複雑さを呈する,と述べている。アメリカ合衆国の統治構造においては,権力分立を強調する見地から,行政部は立法の勧告や資料の提出をすることができるだけで,法律の発案権が議員だけに属するしくみになっており,きわめて多数で多岐にわたる法案が議会に提出されるために,それらを整理し審議する必要上,委員会制度が発達した,という事情がある。また,アメリカの連邦議会では政党規律が弱く,議員個人の政見や利害主張が強いために,他の国では政党規律のかげにかくされてしまうような実質的審議が委員会で公然と行われ,それだけに委員会活動の重要性を高めている,という事情もある。
委員会の類型としては,領域ごとに分担する常任委員会standing committeeのほか,特定の事項についてそのことだけを審議するために作られる特別委員会select(special)committee,両院の委員によって構成される合同委員会や,院の議員全員で構成される全院委員会committee of the whole House(本会議での定足数要件よりゆるい定足数要件のもとで,議長の選任したものの司会で開催される)がある。最も重要な役割を演ずるのは常任委員会である。かつては,議員の利害要求に従って濫造され,各院で60~70の委員会が存在した時期もあったが,今日では,下院22,上院18に整理されている。下院でいえば議事運営,歳出・歳入の各委員会,上院では歳出,外交,財政の各委員会が,とくに重要なはたらきをしていると指摘されている。なお,委員会のもとに小委員会がおかれている(20名をこえる議員によって構成されている委員会は,少なくとも四つの小委員会を設けなければならない)。院に提出された無数の法案は委員会に付託されるが,委員会(または小委員会)がそれを積極的に採り上げる際には,公聴会が開かれ,つぎに,委員会(または小委員会)の案が審議・決定され,本会議の審議を経て最終的に法律が成立することとなる(この段階で修正されることは多くない)。委員会(および小委員会)の審議はこれまで多く非公開であったが,1970年の改革によって,例外を除き公開制となった。
イギリスは,アメリカと対照的に,議会制の運営に基づく本会議中心主義の例としてあげられてきたが,ここでもしだいに,委員会が重視されるようになってきている。アメリカとちがって,イギリスの常任委員会は,事項ごとの専門別委員会ではなく,A,B,C,……の名称を与えられ,議長によって審議事項が配分される。
日本
日本国憲法は,委員会制についてなんらの定めもおいていないが,国会法および両院の議院規則によって,委員会中心主義を採用した。国会法は,衆議院につき18,参議院につき16の分野別常任委員会をおくことを定めているほか,各院がその院においてとくに必要があると認めた案件または常任委員会の所管に属しない特定の案件を審査するため,特別委員会を設けるむね,定めている。議員は少なくとも一つの常任委員会の委員となり,議員の任期中その地位にある。特別委員会の委員は,付託された案件がその院で議決されるまで,その任にある。委員数の各会派への割当ては,会派所属議員数の比率による(与野党議席数伯仲の時期になると,委員長ポストを与党がとるために委員長以外の委員数では与野党の勢力が逆転する,いわゆる逆転委員会が少なからず生ずる)。
法案が提出(内閣による)または発議(議員による)されたときは,議長は,原則として,それを適当の委員会に付託する。委員会で,法案の趣旨説明のあと,質疑,討論を経て表決に付され,その結果が委員長によって本会議に報告されて,本会議での審議が始まることとなる。ただし,議院が委員会に中間報告を求め,その案件について議院がとくに緊急と認めたときは,委員会の審査に期限を設けることも,議院で直接に審議することもできるなど,委員会中心主義への制約も設けられている。委員会の審議は,議員のほか傍聴を許さず,ただ,報道の任務にあたる者その他の者で委員長の許可を得たものについては例外とされている。実際は,委員会審議の新聞報道や特にテレビ中継がひろく行われているが,国会法の建前からいえばそれは例外規定の適用ということになる。国会法はまた,委員会はその決議により秘密会とすることができると定めているが,それは,本会議の場合は憲法自身によって公開原則が定められ,秘密会にするには出席議員の3分の2以上の特別多数が必要とされている(57条)のと対照的である。
委員会制度は,多岐にわたる複雑な問題についての実質的審議を可能にすることをねらいとするが,その反面,議員の関心が自分の委員会に関連する事項に限定される傾向を生むほか,必ずしも公開原則によらない,限られた範囲での審議のために,特殊利益との結びつきが生じやすくなるなどの問題性をかかえている。日本の場合,政党規律がかたいために,党派別をこえた実質的審議が委員会段階で展開されるアメリカ合衆国の場合のようなメリットは見られない。また,行政各部門にほぼ対応するようなかたちで常任委員会がつくられているため,行政各省の名前に対応して〇〇族といわれるような議員集団ができあがり,さまざまの圧力団体と結びついてその利害主張を行政各所に媒介する役割を演ずることに傾きすぎる,という問題がある。
→議会 →国会
執筆者:樋口 陽一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報