日本大百科全書(ニッポニカ) 「資本主義の全般的危機」の意味・わかりやすい解説
資本主義の全般的危機
しほんしゅぎのぜんぱんてききき
general crisis of capitalism 英語
allgemeine Krise des Kapitalismus ドイツ語
общий кризис капитализма/obshchiy krizis kapitalizma ロシア語
資本主義体制が、その最高の発展段階である帝国主義の段階に至ると、その体制の歴史的に進歩的な時代は終わり、社会主義体制への移行のための諸条件が成熟し、資本主義的世界が全面的な危機の時代を迎える、とするマルクス主義の世界史認識を示すことばである。
この主張は、1928年のコミンテルン第6回大会で採択された「コミンテルン綱領」のなかで最初に提唱された。その根拠として、(1)資本主義体制が最高で最後の発展段階である独占と帝国主義の段階に移行し、(2)この時代の諸矛盾の具体的な現れとして帝国主義諸国による世界市場の分割と植民地支配をめぐる帝国主義戦争が不可避なものとなる一方、(3)他方でこの帝国主義戦争の過程から1917年のロシア社会主義革命が成就(じょうじゅ)し、また民族解放と反植民地闘争が高まり、世界的な広がりで社会革命の時代に入っていることが指摘された。ここで「全般的危機」の時代とされるのは、以上の歴史的発展についての認識とともに、第一次世界大戦後のヨーロッパ資本主義経済の長期停滞化傾向という経済上のそれにとどまらず、地球大に広まる社会主義的革命運動や反植民地・民族解放闘争が資本主義体制の政治的、社会的、さらには文化的な危機と解体にまで拡大しているからである。また、これが「資本主義」の危機とされるのは、そこには生産の社会的性格と所有・取得の私的資本家的性格という資本主義の基本矛盾が、独占と帝国主義諸国間の不均等な発展によって敵対と戦争を不可避とするまでに拡大し、この矛盾は結局社会主義革命による以外は解決しえないからである、とされた。
その後、ソ連の指導者スターリンは、1930年代の世界恐慌と続く第二次世界大戦の時代を踏まえて、(1)新たに東欧と中国に人民民主主義革命が成功し、社会主義体制が世界体制へと移行し、(2)民族解放運動が一段と広まり、植民地支配体制が大きく後退していること、(3)帝国主義国家内部でも労働者階級の革命運動が高揚し、崩壊の度を高めている資本主義世界は、国家による経済的・政治的・軍事的支援への依存を強め、いわゆる国家独占資本主義へ移行していること、などをあげて、資本主義は全般的危機の第二段階へ進んだ、と述べた。
さらに1960年のモスクワにおける81か国共産党・労働者党国際会議において採択された「声明」(モスクワ声明)は、(1)キューバ革命やベトナム人民の勝利などに示されるように社会主義体制が一段と前進し、(2)植民地支配体制の崩壊と政治的独立を達成した「第三世界」が独自的発展の道を歩みだし、(3)他方、資本主義体制内部では西ヨーロッパ諸国(とくにEEC)や日本などの発展による競争と対立が広がっていることをあげ、後退する資本主義体制と発展する社会体制という世界史の動きのなかで、両体制の「平和共存」の可能性が出てきているとして、全般的危機は第三段階に入ったと指摘した。
以上の全般的危機説は、一部のマルクス主義者によって今日なお支持されているが、1980年代から1990年代始めにかけて相次いだソ連と中国・東欧諸国などの、社会主義諸国の崩壊ないしは自己変革という現実を踏まえて、マルクス主義者の間でも疑問視されている。世界史の発展を社会主義への道と単線的な発展図式で考え、いっさいの社会運動を社会主義革命という一点でのみ評価する議論では、多様に広まる現代の社会経済体制とその改革動向を正しくとらえられないという批判が強まっている。
[吉家清次]
『「81カ国共産党・労働者党代表者会議の声明」(『世界政治資料』114号所収・1961・日本共産党機関紙経営局)』▽『井汲卓一著「移行期としての現代」(『講座マルクス主義11 現代の世界』所収・1970・日本評論社)』▽『スターリン著、全集刊行会訳『ソ同盟における社会主義の経済的諸問題』(大月書店・国民文庫)』