改訂新版 世界大百科事典 の解説
資本集約型産業・労働集約型産業 (しほんしゅうやくがたさんぎょうろうどうしゅうやくがたさんぎょう)
労働力または生産量に対比して大量の資本設備を用いる産業を,一般に資本集約型産業という。労働集約型産業は,その反対概念。産業の資本集約度は,資本量/労働量の比率,すなわち,労働1単位当りの資本で測るのが普通である。労働者が平均的にみてどれだけの資本を装備しているかを示す値であり,労働の資本装備率あるいは単に資本装備率とも呼ぶ。資本集約度が高ければ高いほど,それだけ機械化が進んでおり,労働生産性も高いとされる。K.マルクスの〈資本の有機的構成〉も類似概念であるが,資本量を資本量と労働量の和で除する。
こうした資本集約型産業の例として,鉄鋼,非鉄金属,化学,石油精製,紙パルプなどがあり,逆に資本集約度の低い労働集約型産業の例として,衣料,皮革,家具などがある。前者に重化学工業が多いのに対し,後者は概して軽工業が中心である。また,企業規模に着目すると,前者には大企業,後者には中小企業が多い。日本では,両者における資本集約度の開きが欧米よりもとくに大きく,いわゆる二重構造の原因とされてきた。最近では,産業用ロボットの導入,FA(ファクトリー・オートメーション)化の進展で機械など組立加工型産業を中心に,各産業で資本集約度が高まっており,中小企業のそれも部分的に高まりつつある。
国際的にみると,一般に産業の発達した先進国では資本集約型産業が,発展途上国では労働集約型産業が支配的である。従来,日本は,発展途上国に対しては資本集約的商品の輸出が,先進国に対しては労働集約的商品の輸出が,それぞれ大宗を占めてきた。1950-60年代にはこの構造を〈貿易の二重構造〉と呼ぶこともあった。しかし,近年,アメリカなど先進諸国に対しても,鉄鋼,自動車,工作機械,集積回路など資本集約的商品が輸出されて貿易摩擦をひき起こすまでになっており,日本の貿易構造は大きく変化している。
執筆者:田中 隆之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報