資源ナショナリズム(読み)シゲンナショナリズム(英語表記)nationalism over resources

デジタル大辞泉 「資源ナショナリズム」の意味・読み・例文・類語

しげん‐ナショナリズム【資源ナショナリズム】

豊富な天然資源を保有する開発途上国で、先進国大企業による生産と利益の独占を排除し、自国発展のために資源を役立てようとする動き。1970年代から高まる。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「資源ナショナリズム」の意味・わかりやすい解説

資源ナショナリズム
しげんなしょなりずむ
nationalism over resources

主として開発途上の資源保有諸国による、天然資源に対する支配権拡大の主張と、それを実現するための諸活動のことをいう。資源ナショナリズムの先駆的形態は1962年に国連で採択された「天然資源に対する恒久主権に関する決議」にみいだすことができ、そこでは、天然資源がその保有国に属し、資源保有国の民族的発展とその国民の福祉のために使用されるべきことが確認された。また、今日の開発途上諸国の資源ナショナリズムは新国際経済秩序によって象徴され、その考え方は74年に国連で採択された「新国際経済秩序の樹立に関する宣言」と「国家経済権利義務憲章」で明確にされた。とくに前者においては、いずれの国も自国の天然資源を保護するために、国有化および所有権を国民に移転する権利をもち、さらに天然資源に対する効果的な管理および自国の状況にふさわしい手段によって資源を開発する権利をもつことが強調されている。また、資源ナショナリズムをもっとも具体的に表現したものはUNCTAD(アンクタッド)(国連貿易開発会議)の「一次産品総合プログラム」であるが、一次産品交易条件の持続的改善のための資源カルテル(生産国同盟)の結成、開発途上諸国による外国企業の国有化、資源輸出価格の輸入品価格へのインデクセーション物価スライド制)、開発途上諸国産品の先進国市場へのアクセスの改善、開発途上諸国の工業化推進、などの諸施策も資源ナショナリズムの発現形態である。

[入江成雄]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「資源ナショナリズム」の意味・わかりやすい解説

資源ナショナリズム
しげんナショナリズム

資源保有国の自国資源に対する主権回復のイデオロギーないしはその運動のこと。具体的な動きとしては,(1) 資源の開発,生産にたずさわる外資系企業の国有化またはその事業への参加,(2) 生産国カルテルの結成などを通じた価格引上げ,生産・供給制限などがある。資源ナショナリズムは,1973年 10月の石油輸出国機構 OPECによる石油戦略を契機に,特に発展途上国において世界的に高揚したが,その萌芽はすでに 1952年の第7回国連総会に見出される。その後「天然資源に対する恒久主権」に関する9ヵ国専門委員会の設置を経て,62,65年の国連総会では「天然資源に対する恒久主権」が採択された。特に 65年の決議では天然資源の有限性が指摘されるとともに,その開発を独占してきた多国籍企業の活動に対する規制と自力による開発,利用の権利が強調されている。発展途上国はその後も国連貿易開発会議国連工業開発機関および国連資源特別総会などの場で,先進国に対し自国資源に関する主権回復を強く主張している。今日では石油,銅,リン鉱石など主要資源についての生産国主権はほぼ確立したといえる。 (→新国際経済秩序樹立に関する宣言 )

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

旺文社世界史事典 三訂版 「資源ナショナリズム」の解説

資源ナショナリズム
しげんナショナリズム

先進諸国の経済発展を第一義に考えた従来の資源開発や輸出を改め,発展途上国が資源を自国の経済に有効活用すべきであるという考え方
1964年の第1回国連貿易開発会議(UNCTAD)で「援助よりも貿易を」というスローガンが打ち立てられ,また60年代から「資源有限」の考え方が広く普及したことが背景となっている。この流れは1970年代のアラブ石油輸出国機構(OAPEC)の石油戦略によって大きなものとなり,74年の国連資源特別総会は「新国際経済秩序樹立に関する宣言(NIEO)」を採択するに至った。しかし1990年代以降は経済発展だけではなく環境の視点も重視されるようになり,地球温暖化をめぐる問題などで,先進諸国と途上国の新たな対立が生まれている。

出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の資源ナショナリズムの言及

【OPEC】より

…結成の直接的契機は,1959年2月と60年8月の2回にわたり,国際石油会社(メジャー)が行った原油公示価格(産油国に対する利権料と所得税の基準となる計算(価格))の引下げに求められる。しかしその基礎には,石油資源の保有国がその資源に対する恒久主権をもつという考えが国際的に確立されはじめ,資源ナショナリズムが高揚しつつあった事実がある。ところが実際には,価格決定権をはじめ,石油の生産,輸送,精製,販売等のすべては,国際石油会社の手中に握られており,産油国は受動的に利益配分を受け取るだけの状況に対する不満や反発が,その主動因であったといえよう。…

【開発輸入】より

…さらに,60年代における発展途上国の相次ぐ独立に伴うナショナリズムの高まりや,60年代後半から70年代にかけて浸透した〈資源有限意識〉によって,資源輸出国の国際的地位が強化された。この二つの動きが資源ナショナリズムを生んだ。そして,先進国にとっては資源の安定確保,発展途上国にとっては経済発展という両者のニーズを満たす形としての開発輸入方式が定着していったのである。…

【鉱業】より

…例えば,67年コンゴ民主共和国はユニオン・ミニエール社(ベルギー)の資産を接収,70年ペルーはアルサコ,アナコンダ両社(ともにアメリカ)を接収,71年にはチリがアナコンダ,ケネコット両社(ともにアメリカ)の鉱山を国有化した。 このような資源ナショナリズム(資源保有国が資源に関する主権を回復し,資源の生産または輸出における地位の大幅な改善を図ろうとする動き)は,73年10月の第4次中東戦争を契機とする石油危機で噴出し,この成功に刺激されて他の資源においても活発化した。例えば,74年に主要なボーキサイト産出国がIBA(International Bauxite Associationの略。…

【新国際経済秩序】より

…現行の国際経済秩序はこれをつくり出した先進諸国にとって有利で,南北格差を固定化するものであり,南の貧困を解決するためにはこの秩序自体を根本的に変革することが不可欠である,というのである。こうした認識のもとに,1970年代以降南側諸国は資源ナショナリズムを発動し,OPEC(オペツク)の石油戦略の成功(石油価格は1973年10月の中東戦争後短期間に4倍化)をてことして団結力を固め,発言力を強化してきたが,そのハイライトとして74年の第6回国連資源特別総会は〈新国際経済秩序(NIEO)樹立に関する宣言〉をコンセンサス方式で採択するにいたった。NIEOの主旨は,南北問題の解決には,従来の市場メカニズムに従った自由貿易の原則とは異なり,発展途上国に対する一方的な優遇措置を含む新たな原則が必要であるというものである。…

※「資源ナショナリズム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android