翻訳|claudication
跛行とは歩行異常の一種をいい,俗に〈びっこ〉ともいう。歩行中の肩の上下運動,体幹の左右前後への異常な振れ,下肢の運び,歩幅,体重を支える立脚期からその脚を地面から離して前方に進める遊脚期への時間的間隔などを総合的に分析して,歩行が異常か正常かを判定する。しかし,実際にはどこまでが正常で,どこからが異常かの判定はなかなか困難である。正常人でも歩き方には癖があるし,同一人でも履物の種類やどのような衣服を着ているかによって歩行は変わってくる。また肥えた人は,体重を支持脚に確実にのせて身体を前方に進めるために,肩を揺らせて歩行することが多い。歩きはじめたばかりの幼児のよちよち歩きの場合も肩を左右に振るが,これは跛行とはいわない。
跛行の分類は以前から多くの人によってなされているが,いまだに各国共通のものはない。跛行という現象があまりにも千差万別で分類のしようがないためである。日本で用いられている跛行の分類はだいたいドイツ系統のもので,麻痺性跛行,痙性跛行,失調性跛行,墜落性跛行の4種類に分けられる。一方,アメリカやイギリスにおいてはドイツ式のような理論的な分類をしないで,それぞれの跛行の特徴をそのまま表現しているものが多い。たとえば,duck gait(アヒル歩き),goose gait(ガチョウ歩き)というようにあだ名で呼んでいるような傾向がある。ここでは,日本での分類をもとにして,各跛行の内容を説明する。
下肢に末梢神経性の麻痺があるときの跛行である。麻痺のために足関節の背屈ができなくなったり,大腿をもちあげることができない場合に,下垂したまま足を地面に引きずって歩くような跛行である。
脳性小児麻痺の痙性型,脊髄腫瘍,頭部外傷,脳卒中後の片麻痺などにみられる跛行である。下肢全体の筋肉の緊張が高まっているので,物につまずいたときに前のめりによろけるような歩き方をする。歩幅は狭く急ぎ足で,ときにはつま先立ちでの歩き方,はさみのように両方の足を交差させながらの歩き方などが含まれる。
脳性小児麻痺の失調型,アテトーシス型などにみられる跛行である。四肢の筋肉群の協調運動ができず,筋緊張のバランスがくずれているので,歩行はよろよろと不安定である。また足を高くあげたあと,足底で急速に床を打ちつけるような歩き方をする。アテトーシス型の場合には歩行ができないことが多いが,たとえ歩けた場合でも,四肢の筋群は不随意的に無制御の状態なので理解のできない余計な動作が入り,いかにも奇異な感じがする歩き方である。
一般に,足を交互に進めるたびに患側の肩の上下が激しい跛行で,なんらかの原因で片脚が短縮している場合の歩き方である。下肢の切断や骨自体が短くなっている場合には,患側の肩は脚が短縮している分だけ沈下を繰り返す。これを硬性墜落性跛行という。一方,先天性股関節脱臼の場合は,大腿骨の骨頭が股関節の外上方に脱臼しているために下肢が短縮している。患側で立脚すると,同側の肩が沈下することは硬性跛行の場合と同じである。しかし股関節が脱臼していて骨性の支持が得られていないために,骨盤を支える役目をしている臀部の筋肉は有効に働かない。そのために脱臼側の脚で立った場合には,その反対側の骨盤も沈みこんでしまう。その歩き方はいかにも柔らかく弾性に富んだ感じがするので,軟性墜落性跛行と呼ばれる。
しかし,これですべての跛行が分類しつくされたわけではない。これらのほかにも疼痛や転倒を避けるための逃避性跛行,関節変形や拘縮による跛行,関節に不安定性がある場合の跛行,筋力低下のある場合の跛行などがある。もし跛行があると判断したならば,どうして歩き方がおかしいのか,その機序を分析しなければならない。そうすることによって原因となっている病気の診断も可能になり,治療へとつながっていく。
執筆者:石井 清一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
歩行障害の一種で、片足を引きずるようにして歩く状態をさす。
[編集部]
…このような関節痛を生じる疾患は非常に多く,膝関節痛が生じたら直ちに骨肉腫と考えることはないが,疼痛が持続したり,腫張が生じた場合は専門医へ受診する必要がある。疼痛は最初は運動時の疼痛で間欠的であるが,やがて疼痛は持続的となり,病巣部に一致して腫張や関節の可動性制限を生じるようになり,大腿骨や脛骨発生例では疼痛のために跛行を生じ,上腕骨上端発生例では肩関節の運動制限を生じるようになる。病気の進行につれ,病巣部に一致して静脈怒張,局所熱感,圧痛などを生じる。…
※「跛行」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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