踏・履・践(読み)ふむ

精選版 日本国語大辞典 「踏・履・践」の意味・読み・例文・類語

ふ・む【踏・履・践】

〘他マ五(四)〙
[一] 足を上からおろして、下にある物を押えるようにする。また、足の位置を移動する。
① 足の下にする。足で押えつける。
※仏足石歌(753頃)「いかなるや 人にいませか 石の上を 土と布美(フミ)なし 足跡(あと)(の)けるらむ 貴くもあるか」
② 足で下のものを押えるようにして前に進む。
万葉(8C後)一八・四一一六「岩根布美(フミ) 山越え野行き 都辺に 参(ま)ゐしわが背を」
③ その場に身を置く。その土地を訪れることをいう。
※葉子十行本平家(13C前)一〇「本朝高野山に生身の大師入定して御座す。此の霊地をも未だ蹈まずして徒らに日月を送る身の」
④ (「お百度をふむ」などの形で) 参詣する。
※御伽草子・唐糸草子(室町末)「沼田の庄にて、百日の日をふんで、いま鎌倉へ上るとて」
⑤ 足で突く。蹴る。
※天草本伊曾保(1593)獅子驢馬のこと「マナコト ヲボシイ アタリヲ チカラニ マカセテ シタタカニ fumeba(フメバ)
⑥ 足拍子をとる。足踏みしながら舞う。舞踏する。
※御伽草子・唐糸草子(室町末)「三番は熊野が娘の侍従太平楽をふむ」
⑦ はきものをはく。
日葡辞書(1603‐04)「クツヲ fumu(フム)〈訳〉靴をはく。下(シモ)
⑧ 足で探る。あさる。
※浄瑠璃・三日太平記(1767)二「女・男のわかちなく、蜆・蛤踏(フム)姿」
[二] 身体をしかるべき場に置く意から、比喩的に用いる。
① あとをひき継ぐ。踏襲する。
※大唐西域記長寛元年点(1163)序「親から践(フメ)る者は一百十一国、伝て聞ける者は二十八国」
② (「位をふむ」の形で) 身をその地位に置く。位につく。
※平家(13C前)四「天子位をふむ先蹤、和漢かくのごとし」
③ (ことばだけでなく)実際に行なう。履行する。実践する。
※太平記(14C後)一三「伯夷・叔斉が潔きを踏(フミ)にし跡」
④ その過程を通る。規範などにのっとって従う。
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉二「正当の手続きを踏まないで」
⑤ (多く「舞台をふむ」の形で) 出演する。技芸を行なう。
※浮世草子・男色大鑑(1687)五「花代も舞台踏(フム)は銀一枚に定めぬ」
[三] 実地に調査して、確実なものを得る。
① 値段をつける。評価する。鑑定する。判断する。
※黄表紙・江戸生艷気樺焼(1785)中「どうやすくふんでも、五六百両がものはあるのさ」
② 比率を定める。割合をきめる。
※甲陽軍鑑(17C初)品四七「知行百貫とる者、大形五十貫は名田と申物にて、年貢少づつ出し、残は其地主、知行にふみてとる」
[四] 損失を与える。
代価を支払わないで、相手に損害を与える。踏み倒す。
※談義本・教訓雑長持(1752)二「当時は病家から医者を踏(フム)が沢山ある」
② 金銭的に損をする。相場で損を承知で見切るなど。
※洒落本・北華通情(1794)「利敗のために心をうてども、ふんで愁へざるは新地の宴(たて)にあらはれ」
③ 花札で他人が同種の札二枚を持っていてそのうちの一枚を場に捨てたとき、それをすぐに取る。また、他人のめくり出して場に捨てた札をすぐに取る。
※黄表紙・孔子縞于時藍染(1789)上「拙者がひょっと八をめくると、赤蔵(あかぞう)ができますから、ひらに八をおふみなされ」
[五] (「韻をふむ」の形で) 漢詩や西洋の詩などで、所定のところに、同一の韻や類似音を配することをいう。押韻する。
※売花翁(1893)〈斎藤緑雨〉「梯子に代へて降りて来る総て韻をルで蹈(フ)んでサアおぢゃと路次まで出るはいいが」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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