個人の一身上の問題につき,1対1の関係を通してなされる個別的な相談。〈人生相談〉ともいう。問題の解決に役だつ,心理,社会,法律,教育,精神医学,社会福祉などの知識や,社会資源についての情報を提供する機能と,回答者との直接・間接的な信頼に基づく関係の中で,問題および自己洞察を深める機能をもっている。絶対的な救いを約束する宗教や,法律による裁きとは異なり,対等な人間によってなされる援助であるところに身上相談の独自性がある。したがって,相談者,回答者双方の独立性と思想の自由が保障される場としての手続の確保,および秘密の保持が不可欠な条件となる。
身上相談が日本で初めて新聞に登場したのは,1914年5月のことで,《読売新聞》が同年4月与謝野晶子,田村俊子の入社を機に婦人面〈婦人の声〉を創設,その面に〈身の上相談〉欄が開設された。なお雑誌では《主婦之友》が17年7月号から〈主婦俱楽部〉で始めた。以後,身上相談は普及して《朝日新聞》は31年5月に家庭面の創設と同時に〈女性相談〉欄をスタートさせている(山田わかが1937年まで回答を担当)。最近はラジオ,テレビ,週刊誌などのマス・コミが競ってとりあげるようになった。ただしその多くは,商業ベースの中で興味本位に扱われている。一方,社会福祉サービスをもつ行政機関による相談や,心理学的技法をとり入れた公私各種相談機関,その他宗教団体による相談などが盛んで,身上相談ブームといわれる時代を迎えている。
相談者を性別にみると,採用対象となった投書の9割近くを女性が占め,相談内容は家族の問題(育児,教育,遺産相続など)が2分の1に近く,自身の問題(性格,容姿,進路など),配偶者の問題,家族以外の人との問題がこれに次ぐ(《読売新聞》1983-84年の場合)。身上相談欄は世相を映す鏡であるが,いつの世にも変わらぬ人生の問題が一貫している。
身上相談は一個人の特殊な相談に対して具体的な回答が出される点で,あくまで個別性をその本質にしているが,それがマス・メディアを舞台に公表される場合には,どこかに一般性を内在させていることが要求される。すなわち,身上相談の社会的な機能としては,相談者には,悩みごとの解消への一歩を指し示すという意味で〈治療効果〉があり,読者には同じ境遇にあれば自分に対する回答であり,あるいは将来自分またはその周辺で起こりうる問題に対する心構えのつもりで,重ね合わせて考えるという〈教育効果〉があるといえよう。
なお,外国,とりわけ欧米のキリスト教国でも新聞,雑誌には身上相談のコーナーがある。かつては悩みごとは教会の告解などにより社会的に処理されてきたが,世俗化の進行とともにカウンセリングがその役割に取って代わりつつあるのが実情である。
執筆者:井原 美代子+芹山 武
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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