家庭医学館 「輸入感染症と皮膚の病変」の解説
ゆにゅうかんせんしょうとひふのびょうへん【輸入感染症と皮膚の病変】
海外へ出かける人が増えるにつれ、海外で感染し、日本へ持ち帰る輸入感染症が増えています。皮膚の病変が目立つので、皮膚科を受診すると寄生虫病(きせいちゅうびょう)といわれ、驚きます。受診するときには、早く正確な診断のためにも、どこの地域に行ってきたかを報告しましょう。
■ライム病
草原ややぶを歩くとボレリアという病原微生物を保有するマダニに刺されて感染します。
ライム病は、北回帰線以北に分布しますが、ヨーロッパで感染した場合は皮膚症状が、北アメリカで感染した場合は関節炎(かんせつえん)の症状が目立つようです。これは、ボレリアの遺伝子型が異なるためと考えられています。
●症状
数日~数週のうちにマダニに刺された部位からしだいに遠くへ、輪状の赤いみみず腫(ば)れが拡大していきます。やがてボレリアが血液によって運ばれ全身に散らばると、髄膜炎(ずいまくえん)、神経根炎(しんけいこんえん)、顔面神経(がんめんしんけい)まひ、関節痛(かんせつつう)、筋肉痛(きんにくつう)、心膜炎(しんまくえん)、心筋炎(しんきんえん)、皮膚炎(ひふえん)、虹彩炎(こうさいえん)、ボレリアリンパ球腫(きゅうしゅ)などの症状が現われてきます。一部の症状は、治っては再発することをくり返すうちに慢性化し、慢性関節炎、慢性萎縮性肢端皮膚炎(まんせいいしゅくせいしたんひふえん)がおこります。
●診断
血液の血清(けっせい)を調べ、ボレリアの抗体の存在が証明されることで診断がつきます。
●治療
ドキシサイクリンやアモキシシリンなどの抗生物質の内服で治癒(ちゆ)します。
■スナノミ症、ハエ幼虫症
アフリカ旅行後の、スナノミやヒトヒフバエ、ヒトクイバエなどの寄生例もあります。
◎皮膚爬行症(ひふはこうしょう)とは
寄生虫やその幼虫が、皮膚の中をはい回り(爬行)、皮膚に病変が現われることがあります。これを皮膚爬行症といいます。
皮膚にこぶやみみず腫れのような線状の病変が生じ、寄生虫や幼虫がはい回るにつれて、病変が移動・拡大していきます。
ライギョ、ドジョウ、コイなどの淡水魚、サワガニ、スケソウダラ、ハタハタ、ホタルイカ、イノシシ肉などを生食して感染します。
◎海外で感染する皮膚爬行症
海外で感染する可能性のある皮膚爬行症には、つぎのようなものがあります。
■マンソン孤虫症(こちゅうしょう)(コラム「マンソン孤虫症」)
イヌやネコの腸管に寄生するマンソン裂頭条虫(れっとうじょうちゅう)の幼虫(プレロセルコイド)が感染しておこります。感染源の大半は、ヘビ、カエル、ニワトリなどの生食です。
台湾、韓国、ベトナム、インドネシアなどでの感染が多いのですが、日本でも感染の危険があります。
●症状
こぶのような盛り上がり(腫瘤(しゅりゅう))ができ、移動します。腫瘤は、腹部に発生することが多いのですが、胸、股(また)のつけ根、手足、乳房に発生することもあります。
●治療
皮膚を切開し、幼虫を摘出します。
■旋尾線虫症(せんびせんちゅうしょう)(コラム「幼虫移行症とは」)
旋尾線虫症の幼虫が寄生する川魚を生食しておこります。日本では、ホタルイカの生食でよくおこります。
●症状
幅1~2mmの赤色または赤褐色の線状のみみず腫れが発生します。
●治療
皮膚を切開し、幼虫を摘出します。
■その他の皮膚爬行症
顎口虫症(がくこうちゅうしょう)(「顎口虫症」)、肺吸虫症(はいきゅうちゅうしょう)(コラム「肺吸虫症」)、皮下嚢尾虫症(ひかのうびちゅうしょう)、ブラジル鈎虫(こうちゅう)、イヌ鈎虫でも皮膚爬行症がおこることがあります。