伝統的な農林水産業および世界的に重要な農林水産業システムを次世代に継承するため、2002年にFAOが創設した認定制度。英語ではGlobally Important Agricultural Heritage Systemsと表記し、略して「GIAHS(ジアス)」ともよばれる。
2005年に中国の「青田(せいでん)の水田養魚」(浙江(せっこう)省青田県)が認定されて以降、2018年3月までに19か国49の地域が認定されている。中国に3分の1以上の18件の登録が集中する一方、ヨーロッパはようやく2017年になってスペインで2件が登録されたにすぎず、北アメリカとオセアニアは2017年末時点ではまだ1件の登録もない。
社会や環境に適応しながら何世代にもわたり形成されてきた農林水産業と、それにかかわってはぐくまれた文化、地域的なまとまり(ランドスケープ)、生物多様性などが一体となった世界的に重要な農林水産業システムが認定されており、認定を受けた地域は遺産保全のための具体的な行動計画を定め、確実に次世代に継承していくことが求められる。
日本では、2018年(平成30)3月時点で次の11地域が世界農業遺産に認定されている。
(1)「トキと共生する佐渡(さど)の里山」(新潟県佐渡市。2011年認定)
(2)「能登(のと)の里山里海」(石川県能登地域。2011年認定)
(3)「静岡の茶草場農法」(静岡県掛川(かけがわ)周辺地域。2013年認定)
(4)「阿蘇(あそ)の草原の維持と持続的農業」(熊本県阿蘇地域。2013年認定)
(5)「クヌギ林とため池がつなぐ国東(くにさき)半島・宇佐(うさ)の農林水産循環」(大分県国東半島宇佐地域。2013年認定)
(6)「清流長良(ながら)川の鮎(あゆ)」(岐阜県長良川上中流域。2015年認定)
(7)「みなべ・田辺の梅システム」(和歌山県みなべ・田辺地域。2015年認定)
(8)「高千穂郷(たかちほごう)・椎葉(しいば)山の山間地農林業複合システム」(宮崎県高千穂郷・椎葉山地域。2015年認定)
(9)「『大崎耕土』の巧みな水管理による水田農業システム」(宮城県大崎地域。2017年認定)
(10)「静岡水わさびの伝統栽培(発祥の地が伝える人とわさびの歴史)」(静岡県わさび栽培地域。2018年認定)
(11)「にし阿波(あわ)の傾斜地農耕システム」(徳島県にし阿波地域。2018年認定)
[佐滝剛弘 2018年5月21日]
日本において重要かつ伝統的な農林水産業を営む地域を農林水産大臣が認定する制度で、2017年に8地域が初めて認定された。認定基準は、「食料及び生計の保障」「農業生物多様性」「地域の伝統的な知識システム」「文化、価値観及び社会組織」「ランドスケープ及びシースケープの特徴」「変化に対する回復力」「多様な主体の参加」「6次産業化の推進」の8項目となっている。
2018年3月時点で日本農業遺産に認定されているのは、以下の8地域である。
(1)「宮城県大崎地域」 大崎市、色麻(しかま)町、加美(かみ)町、涌谷(わくや)町、美里(みさと)町。「大崎耕土」の巧みな水管理による水田農業システム。
(2)「埼玉県武蔵野(むさしの)地域」 川越市、所沢(ところざわ)市、ふじみ野市、三芳(みよし)町。武蔵野の落ち葉堆肥(たいひ)農法。
(3)「山梨県峡東(きょうとう)地域」 山梨市、笛吹(ふえふき)市、甲州(こうしゅう)市。盆地に適応した山梨の複合的果樹システム。
(4)「静岡県わさび栽培地域」 静岡市、浜松市、富士宮(ふじのみや)市、御殿場(ごてんば)市、下田市、伊豆(いず)市、賀茂(かも)郡東伊豆町・河津(かわづ)町・松崎町・西伊豆町、駿東(すんとう)郡小山(おやま)町。静岡水わさびの伝統栽培(発祥の地が伝える人とわさびの歴史)。
(5)「新潟県中越地域」 長岡市、小千谷(おぢや)市。雪の恵みを活(い)かした稲作・養鯉(ようり)システム。
(6)「三重県鳥羽(とば)・志摩(しま)地域」 鳥羽市、志摩市。鳥羽・志摩の海女(あま)漁業と真珠養殖業―持続的漁業を実現する里海システム―。
(7)「三重県尾鷲(おわせ)市、紀北(きほく)町」 急峻(きゅうしゅん)な地形と日本有数の多雨が生み出す尾鷲ヒノキ林業。
(8)「徳島県にし阿波地域」 美馬(みま)市、三好(みよし)市、つるぎ町、東みよし町。にし阿波の傾斜地農耕システム。
このうち世界農業遺産にも認定されているのは、「宮城県大崎地域」「徳島県にし阿波地域」の2地域である。
[佐滝剛弘 2018年5月21日]