改訂新版 世界大百科事典 「逆浸透法」の意味・わかりやすい解説
逆浸透法 (ぎゃくしんとうほう)
reverse osmosis
水は通すけれども,溶質である無機塩類は通さない半透膜を隔てて,その片側に純水,反対側に無機塩を含む溶液をおくと,水が純水の方から膜を通って溶液の方へ移動する。これが浸透現象であるが,この水の移動は,溶液側に溶液の浸透圧に等しい圧力を加えると停止し,浸透平衡に達する。そこでさらに溶液側に浸透圧以上の圧力を加えると,水は前と逆方向に移動し,溶液から純水が得られることになる。この原理は1956年ころ,アメリカ,フロリダ大学のリードC.E.Reidによって海水淡水化のための新しい方法として提案され,60年アメリカ,カリフォルニア大学のロブS.LoebとスリラーヤンS.Sourirajanが優れた半透性をもつアセチルセルロース膜の独自の製法を発見し,実用化に至った。この膜は全体の厚み0.2mmのうち,表面に約1μmの厚さの密な層があり,この表面層が半透性をもった構造になっている。このために膜の実際の厚さが見掛けの厚さに比べて小さく,膜透過抵抗が小さくなる。一方,半透性は膜の厚みには関係せず,膜の物性と構造によって決まる。一般に膜に水が選択的に吸着されて膜表面の孔をうめるために,溶質である無機塩が通れなくなると考えられている。水よりも選択的に膜に吸着される溶質は分離されにくくなる。
この膜の問題点としては,表面層以外の支持層がスポンジ状であるため,この部分が機械的圧力でつぶれて,膜の透過抵抗がしだいに大きくなり,水がだんだん出なくなり,半透性が失われることがある。膜の強度を大きくする方法の一つとして,膜を強い材料で作るかわりに,直径50~100μm程度の細いホローファイバー(中空繊維)で作り,膜の表面積を大きくする方法があり,1965年ころからアメリカで芳香族ポリアミドを用いる中空繊維膜が製造されている。日本ではアセチルセルロースの中空繊維膜が作られている。もう一つの方法は,機械的な圧力でつぶれない強い多孔性膜の表面に,薄い半透膜をつけた複合膜を用いるもので,いろいろの重合方法で半透膜を形成させたものが各国で作られている。
現在では海水から一段で塩分濃度200ppm程度の淡水が得られるようになっており,省エネルギーの点からも海水淡水化の新しい方法として普及しつつある。これらの半透膜は食塩以外の無機物に対する半透性もよく,各種の無機成分を含む排水処理のためにも用いられている。さらに膜材料によっては有機物に対する半透性もよいので,無機,有機両成分を一度に除去して,水を再利用する方法にも利用できる。また水中の微細な懸濁物,細菌,ウイルスなども除去されるので,滅菌水の製造や,エレクトロニクス用LSIの製造工程用洗浄水としての超純水の製造にも用いられている。
執筆者:木村 尚史
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報