車軸藻植物、コケ植物、シダ植物の雌性配偶子(卵細胞、雌性生殖細胞ともいう)を形成する器官のことで、その特有な構造から藻類や菌類の生卵器とは区別されている。
車軸藻類では、節(せつ)(葉の分岐点)の部分の表皮細胞が突起して生じた台細胞上に形成される5本の管状細胞が、螺旋(らせん)状に巻いて球形の造卵器となる。卵細胞は1個で、台細胞の先端に生じる柄細胞の先に形成される。管状細胞の先端には1~2個の小細胞が分化し、小冠(しょうかん)とよばれ、精子の入口となる。
コケ植物、シダ植物の造卵器は配偶体の表皮細胞から形成され、配偶体の組織内に腹部、外側に頸(けい)部が分化する。腹部は1層の壁細胞からなり、内部に卵細胞と腹溝細胞とを1個ずつ形成する。頸部は4列の頸細胞からなり、各列は数個の細胞で形成され、配偶体の外部へ突出し、内部に頸溝細胞を生じる。頸溝細胞の数は、コケ植物では3個、シダ植物では1個(二核性)である。造卵器が熟すと頸溝、腹溝細胞は溶けて、造卵器の外へ放出され、精子の誘引物質として働く。異形胞子を生じるシダ植物では、造卵器は大胞子の殻中で形成される。
造卵器は裸子植物にもみられるが、裸子植物の場合は、胚嚢(はいのう)の表面の1細胞から生じ、各1個の卵細胞、腹溝細胞と、頸細胞2個からなる退化した型である。
[安田啓祐]
藻類のうち車軸藻類,陸上植物ではコケ植物,シダ植物の雌性配偶子囊で,配偶体の上に生じる。中に卵をつくり有性生殖にかかわる。一般の藻類では雌性配偶子囊は生卵器(せいらんき)oogoniumと呼ばれ,1個の細胞からなりその中に卵がつくられる。車軸藻類では,造卵器は楕円形で,卵細胞のまわりを数本の細長い細胞がらせん状に巻きついたように並んでいる。コケ植物とシダ植物の造卵器はフラスコ型で,頸部(けいぶ)と腹部からなり,頸卵器ともいう。中には細胞が1列に並んでいるが,最下部の卵細胞のほかはやがて溶ける。精子は化学物質に誘引されて造卵器の頸溝を通って卵に到達し,そこで受精が起こる。裸子植物と被子植物では造卵器は配偶体の中に埋まり,その構造は卵以外は退化の傾向にあるので,ふつうこれらについて造卵器と呼ぶことはない。また数も少なく,裸子植物では1配偶体あたり2~数個,被子植物では1個である。
執筆者:加藤 雅啓
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…藻類や菌類では単細胞性の雌性配偶子囊である。生卵器oogoniumの中に,コケ植物や維管束植物では多細胞性の造卵器archegoniumの底部につくられるが,造卵器を欠く被子植物では,胚囊embryo sacをつくるふつう8細胞のうちの一つが卵になり,助細胞を伴って胚囊の珠口側に位置する。卵は卵母細胞から体細胞分裂によってできるが,カサノリなどのように複相の植物体の場合は,減数分裂を経てできる。…
…配偶体はゼニゴケのように葉状,またはスギゴケのように茎と葉が分化し,糸状の仮根rhizoidをもつ。造卵器はフラスコ形で長いくびをもち,造精器は棍棒状または球状。精子は先端に2本の鞭毛(べんもう)をもち,水中を泳いで造卵器に至り,そのくびの中を通って卵細胞に達する。…
…一部のものでは塊状になり,菌根性のものもある。配偶体には造卵器と造精器がつくられる。造卵器は頸卵器と呼ばれるもので,とっくり状をしており,卵細胞を1個つくる。…
…藻類や菌類では単細胞性の雌性配偶子囊である。生卵器oogoniumの中に,コケ植物や維管束植物では多細胞性の造卵器archegoniumの底部につくられるが,造卵器を欠く被子植物では,胚囊embryo sacをつくるふつう8細胞のうちの一つが卵になり,助細胞を伴って胚囊の珠口側に位置する。卵は卵母細胞から体細胞分裂によってできるが,カサノリなどのように複相の植物体の場合は,減数分裂を経てできる。…
※「造卵器」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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