明治時代に「進化」の対義語として作られた。「進化」は、最初から訳語として西周によって考案されたが、「退化」は、まず「進化」の対義語として使用されて、その後、degeneration の訳語として採用された。
生物の全体の体制や器官の単純化、縮小、消失をいう。一般には系統発生(進化)の過程での退行的変化について用いられる。この場合、退化も進化の一環として理解すべきであるとの観点から、退行的進化ということも多い。個体発生の過程での退行的変化、たとえばオタマジャクシからカエルへの変態に際して尾が消失することなどについても退化ということばを用いることがある。進化における退化の例としては、体内寄生虫の消化器官や感覚器官の退化、洞穴など暗黒条件で暮らす動物の目や体表色素の退化などがよく知られている。これらの例でわかるように、一般に、新しい環境のもとで不用になった器官や、それが存在するとかえって不都合になる器官について退化がみられる。
しかし、暗黒条件下で目は不用に違いないが、かならずしもあって不都合というわけではなく、退行的進化の説明は、体制の複雑化の説明より困難なことが多い。ただ、生物が自分自身をつくりあげるために使うことのできる物質やエネルギーに限度があれば、その範囲内で効率のよい体をつくる必要があり、不用な器官を残しておくことは不利になるということがあるかもしれない。寄生虫で生殖器官が異常に発達していることも、消化器官などの退化によって可能なのだともいえる。全体としての適応を高めるために、体の小部分の退化がおこるということも多くみられる。進化に伴いウマの足指が減少することは一つの例である。これは、指としてみれば明らかに退化であるが、肢(あし)全体としてみれば、走ることにより適応したものになっている。部分的な退化はむしろ普通であって、それなくしては、全体としての適応的進化もありえないとさえいえよう。
[上田哲行]
degeneration
生物進化の過程または個体発生の過程で,個体・器官・細胞の形態が単純化・萎縮し,かつ機能低下する現象をいう。生物の進化において,ある環境への適応は同時に特殊化をもたらす。その結果,ある部分が発達する一方で,不用な部分や不都合な部分は退化する。例えば奇蹄類(ウマなど)の第三指の発達(特殊化)は他の指の退化と不可分な関係にある。生物にとって不都合でもなく,自然選択の対象とならない器官や部分は,退化器官または痕跡器官として残る。このような退化器官は,個体発生の途中段階で未分化なままの状態であるか,反対に発育過剰であったり,あるいは先祖返りを示したりして変異が大きい。
執筆者:小寺 春人
出典 平凡社「最新 地学事典」最新 地学事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…生物体において,進化または飼育栽培の過程で十分発育しなくなり,同時に機能を失って,なごりをとどめるだけとなった器官。ある器官が進化的に発達しつつあるものか,退化しつつあるものかは,類縁の近い他種の生物のもつ相同器官と対比することによって間接的に知ることができる。 成体において無用化している痕跡器官には,動物ではヒトの尾椎,盲腸の虫垂,耳を動かす筋肉,ウシの犬歯,ウマの第3指以外の中足骨,モグラや洞穴性両生類の目,ウズラの前肢第1指のつめなど,植物ではキク科植物の花の中心部の花弁,雌雄異株植物の雄花にあるめしべなど,さまざまな次元で多数の例がある。…
…進歩を何を尺度として測るかは問題だが,実際には進歩的進化もあるし進歩的でない進化もある。例えば生物ではさまざまな器官を退化させて寄生虫になってきた進化があった。 この世界とその構成員については,古代から不変観と変化観の対立があり,後者には輪廻観と進化観がこれも古代からあった。…
※「退化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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