種子をつける陸上高等植物,すなわち種子植物のなかで,種子になる胚珠が,葉的な器官である心皮によっておおわれず,むきだしのままの一群の植物を裸子植物という。裸子植物に属する原始的な種子植物が出現したのは古生代デボン紀の末で,それから中生代の白亜紀中ごろに被子植物が出現するまでは,陸上植物を代表するものであった。
この裸子植物群(マツ,スギ,イチョウ,ソテツなど)は19世紀初頭までは,独立した植物群としては認識されていなかった。ジュシューA.L.de Jussieuは植物界を子葉を標徴として,双子葉類,単子葉類,無子葉類の3群に分類したが(1789),裸子植物は双子葉類に編入されていた。ド・カンドルA.P.de Candolleも,それらを双子葉類といっしょにしていた(1813)。裸子植物を今日のように,種子(胚珠)が心皮(心房)に包まれていない植物として正しく認識したのは,ブラウンR.Brownである(1827)。1851年,ホーフマイスターW.Hofmeisterは球果類の球果とヒカゲノカズラ科の胞子囊穂を比較して,両者の器官学的相同性を論じた。これが裸子植物の分類学的位置を決める最初の重要な業績であった。そのころ,ヨーロッパの古生代末期の地層からシダ状の葉,ソテツ状の幹や種子の化石が相伴って産出することが知られはじめ,シダ植物と裸子植物の類縁性が問題になり,シダとソテツの中間的植物があったのではないかと考えられるようになった。この考えは平瀬作五郎(1896),池野成一郎(1896)によるイチョウとソテツの精子の発見により支持され,ポトニエH.Potoniéはソテツシダ類の存在を推定した(1899)。その存在をシダ種子類として実証したのが,オリバーF.W.OliverとスコットD.H.Scott(1903)である。ここにおいて裸子植物の系統分類学的位置が確定した。その後,半世紀ほどして,アーノルドC.A.Arnoldは,裸子植物は胚珠が露出している異系統の植物群をまとめたものにすぎず,系統的には分類群として成立しないこと,少なくともソテツ系と球果系の二大系統があると提言した(1948)。すでにソテツ類,シダ種子類およびシダ類の類縁性は,オリバーとスコットのシダ種子類の設定のときに示唆されていた。もう一つの裸子植物の大きな群,球果類については,1948-51年にフローリンR.Florinが,コルダイテスとの類縁性を二畳紀からジュラ紀にかけての多くの化石の研究により提言した。いっぽう,ベックC.B.Beckによる前裸子類(原裸子(げんらし)植物ともいう)の発見(1960)により,ソテツ系,球果系ともにそれぞれ原裸子植物のアネウロフィトン目とアルカエオプテリス目から由来するという提唱もあり,裸子植物の系統については単元論,二元論をめぐり,現在でも論議が続いている。
裸子植物で高度に特殊化した花の集合体(球花)は,球果類(針葉樹)にみられる。その代表のマツを例にとると,春先,新枝の先端に煉瓦色の楕円体,新枝の基部に黄色の楕円体が群生する。前者が雌球花,後者が雄球花である。雄球花はらせん状に密生する小胞子葉(おしべ)の下面に2個の小胞子囊(花粉囊)を生ずる。雌球花は果鱗複合体をらせん配列する。この果鱗複合体は苞鱗と,それに腋生(えきせい)する軸性の種鱗からなる。種鱗上に2個の倒生胚珠を生ずる。ピルゲルR.Pilgerは果鱗複合体を苞鱗とそれに腋生した退化した短枝上に生じた2枚の大胞子葉とみなしている(1924)。そうすると,この果鱗複合体は1個の花であり,それが集合した雌球花は1個の花序ということになる。また,ゴノフィル説(メルビルR.Melville,1962)によれば,果鱗複合体は退化した短枝上に生じた栄養葉と胞子葉とみなすこともでき,ハナヤスリ目の共通柄上の栄養葉と胞子葉,イチョウの短枝上の葉と胚珠(雌花)と相同であるとみることができる。この考えでも雌性球花は花序ということになる。
球果目の小胞子は外壁と内壁の間に空隙(くうげき)ができ,それがふくらんで気囊(翼)となる。小胞子は2回分裂して2個の前葉体細胞と1個の中心細胞となり,後者はさらに分裂して花粉管細胞と生殖細胞になり,結局計4細胞の状態で花粉として放出される。花粉は胚珠の珠孔に達し,翌年の早春に発芽,花粉管を伸ばす。それとともに生殖細胞は分裂して柄細胞と造精細胞となり,後者はさらに2個の精核に分裂する。いっぽう,胚珠では珠心表面下の細胞が減数分裂して4個の大胞子となり,うち1個が機能し,発芽して雌性配偶体となり,珠孔側に造卵器をつくる。卵は花粉管で送られてきた精核の1個と合体し,受精卵はただちに分裂して胚を形成しはじめる。すなわち核は受精卵の下方に下り,核分裂し下端から順次細胞形成が行われ,4列4層の16細胞からなる前胚をつくる。最上部は受精卵との隔壁がなく,その下の細胞はロゼット細胞,その下は長く伸びた胚柄細胞,下端の細胞から胚本体ができる。4列の細胞列の先端が胚となるので,胚は1受精卵から4個できる。また造卵器は1配偶体に4~5個できるので,胚は20個もつくられることがある。しかし,生長するのはそのうち1個のみである。マツの場合,子葉は5~十数枚である。
執筆者:西田 誠
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種子植物のなかで種子に保護器官のないものをいい、被子植物に対する分類群である。すべて樹木であり、木部は仮道管からなり、師部(しぶ)要素には伴細胞がみられない。葉は大形の複葉から小形の針状葉、鱗片(りんぺん)葉などさまざまである。花は単性花で、花粉嚢(のう)や胚珠(はいしゅ)がそれぞれ集合して雄花や雌花をつくる。普通、花被(かひ)はない。球果をつける松柏類(しょうはくるい)では、胚珠が堅い包鱗に覆われて花被のようにみえるが、この包鱗は枝に相同な器官と考えられるため、葉と相同である被子植物の花被と同じとはみなさない。胚珠は心皮に包まれないで裸出し、普通、1枚の珠皮に包まれた珠心からなる。珠心で分化した胚嚢母細胞が減数分裂によって胚嚢細胞をつくり、さらに体細胞分裂を繰り返して、多量のデンプンを蓄えた多細胞の胚嚢となる。これは被子植物の胚乳に相当する部分で、受精前に形成されるのが裸子植物に特有な現象である。珠孔(胚珠の先端にある小さな穴)に近い胚乳組織からは2~数個の造卵器がつくられる。花粉は風によって受粉すると、胚珠内の珠皮と珠心のすきまにある花粉室へ取り込まれ、受精するまでの数か月間はここにとどまり、精子や精細胞をつくる。胚珠内で胚乳形成が完了すると受精が行われる。発芽後生じる子葉の数はさまざまで、イチョウは2個、松柏類は6~12個である。裸子植物は中生代に繁栄した植物で化石が多い。大形の複葉をもつソテツ類、球果をつける松柏類、珠皮が2枚のマオウ類の3群に大別され、現存種は約800種である。
[杉山明子]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…配偶体が極端に退化して胞子体の胚珠の組織に寄生する。被子植物以外の4門が裸子植物であるが,これが多系的であることから,五つの群を独立の門とすることが多い。ソテツ植物門 茎は太く,軟木質。…
…裸子植物とならぶ種子植物の二大区分の一つで,分類上,ふつう亜門とされるが,有花植物Anthophyta,またはモクレン植物Magnoliophytaとよばれて,門にされることもある。もっとも進化した植物群で,現在,双子葉植物と単子葉植物に二大別され,約22万種が知られている。…
※「裸子植物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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