血球を産生する器官。ただし,造血器官として単一の器官が存在するわけではなく,造血組織を含む器官を造血器官とよんでいる。造血組織はさまざまの器官中に見いだされる。ヒトをはじめ哺乳類では,発生初期には胚の卵黄囊壁に間充織(間葉)由来の細胞が血島blood islandを形成し,ここから赤血球が生ずる。卵黄囊でのこのような造血はヒトでは胎生10日ごろより始まる。発生の進行とともに卵黄囊が退化すると,肝臓,脾臓,骨髄がこれに代わり,さらに成体ではもっぱら骨髄が造血器官となる。骨髄のみの造血に移行するのはヒトでは胎生5ヵ月ころである。骨髄での造血も,初めはほとんどすべての骨髄で行われるが,年齢が進むと体幹の骨髄に限られる。骨髄では網状結合組織の中で血球が作られ,さまざまの発育段階の血球が存在する。胚の間充織細胞に由来する血球芽細胞は,赤芽細胞となりヘモグロビンを合成し有核の赤血球となるが,ほとんどの哺乳類では,各種の細胞内器官とともに核をも放出した無核の赤血球が,循環血中で酸素の運搬にあたる。一方,骨髄の血球芽細胞からは,骨髄芽細胞,骨髄細胞などを経て白血球の大部分も形成される。
造血器官は,個体発生の時期によって異なるばかりでなく,脊椎動物の系統発生の面からも異なっている。すなわち,哺乳類,爬虫類,鳥類および無尾両生類では成体の造血器官は骨髄であるが,有尾両生類および魚類では,主として脾臓で赤血球が作られる。
一方,動物界を通じて,血球の起源は海綿動物の遊離細胞にさかのぼることができ,これが分化して白血球となり,さらに赤血球が生じたと考えられる。無脊椎動物の血球ないし血球相当細胞の形成器官はさまざまであるが,鱗翅(りんし)目昆虫の幼虫では前胸部に造血器官があり,脱皮,変態に際して多数の血球を放出している。
→造血幹細胞
執筆者:町田 武生
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