逢びき(読み)あいびき(その他表記)Brief Encounter

日本大百科全書(ニッポニカ) 「逢びき」の意味・わかりやすい解説

逢びき
あいびき
Brief Encounter

イギリス映画。1945年作品。デビッド・リーン監督妻子ある医師(トレバー・ハワードTrevor Howard、1913―1988)と人妻(シリア・ジョンソンCelia Johnson、1908―1982)のつかのまの恋が、女性の独白ナレーションに切々と語られる。原作は駅の待合室のみを舞台にしたノエル・カワードの一幕ものの戯曲静物画」。駅の待合室でふとしたことから知り合った男女は、出会いを重ねるなか、深い愛情を抱き合うようになるが、それぞれの家族に対する責任と良識の前に一線を越えることなく別れていく。明暗のコントラストを強調したロバート・クラスカーRobert Krasker(1913―1981)の撮影、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を用いた背景音楽がイギリス的な大人の恋の物語を盛り上げる。クライマックス直後からの回想によって語り起こす巧妙なプロットをはじめ、映画的演出効果を駆使した情感豊かな名作。カンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞。

[宮本高晴]

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改訂新版 世界大百科事典 「逢びき」の意味・わかりやすい解説

逢びき (あいびき)
Brief Encounter

イギリス映画。1946年製作。劇作家ノエル・カワードが自作の一幕物《静物画》(1936)をみずから脚色し,すでに彼の原作による《幸福なる種族》(1944),《陽気な幽霊》(1945)を撮った新鋭監督デビッド・リーンが映画化した作品。ロッセリーニの《無防備都市》(1946)やルネ・クレマンの《鉄路の闘い》(1946)など,戦火の跡もなまなましい現実を描いた当時のリアリズム映画とは対照的に,古めかしい愛の物語を激情を抑えたイギリス的な〈控えめ〉な語り口で描き,リーンは戦後イギリス映画を代表する監督の一人となった。田舎町の駅を舞台に,ともに家庭をもつ医師(トレバー・ハワード)と人妻(シリア・ジョンソン)の,汽車のすすが女の目に入ったのを男がとってやるという小さな出会いから,男が女の肩にそっと手をかけて去る別れまでを,当時もっとも映画的な話法として流行しつつあった回想形式によって端正に語り,ラフマニノフの《ピアノ協奏曲第2番》の効果的な使用により情感を高めている。74年に再映画化された。
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デジタル大辞泉プラス 「逢びき」の解説

逢びき

1945年製作のイギリス映画。原題《Brief Encounter》。ノエル・カワードの戯曲『静物画』の映画化。監督:デビッド・リーン、出演:シリア・ジョンソン、トレバー・ハワード、スタンリー・ハロウェイほか。

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世界大百科事典(旧版)内の逢びきの言及

【リーン】より

…イギリスの小市民的な文芸映画から国際的な超大作までをみごとにこなす〈職人的〉名匠として知られ,編集技術をマスターしたその緻密(ちみつ)な構成力がもっとも高く評価されている。記録映画,劇映画の編集から出発し,1941年,劇作家のノエル・カワードの初の製作・脚本・監督作品《われらの奉仕するところIn Which We Serve》に共同監督として招かれ,次いでカワードの製作・脚本(あるいは原作)による《幸福なる種族》(1944),《陽気な幽霊》《逢びき》(ともに1945)を撮って,第一級の監督として認められた。これらの作品で,イギリス的な日常生活をいきいきと描き出し,とくに《逢びき》は〈アダルト・ロマンス(おとなの恋愛映画)〉に新風を吹きこんだ名作となり,世界中に大きな影響を与えた。…

※「逢びき」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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