日本料理,および和菓子の一種。料理のきんとんはクリ,インゲンなどを甘く煮含め,これにサツマイモやインゲンのあんをからませたもので,正月料理や口取(くちとり)に用いられる。和菓子のきんとんは,あんや求肥(ぎゆうひ)を芯にして,色とりどりのそぼろあんをまぶしつけた上生(じようなま)菓子である。きんとんの語は室町時代から見られるが,当時の文献には材料や製法の記載はない。ただ一,二の故実書に,不用意に食べると中から砂糖がとびだして顔へかかるから注意すべきだとか,手でつまんで食べるものだとか,書かれている。伊勢貞丈はこのきんとんを,アワのだんごの中に砂糖を入れたもので,色が黄なので〈金団〉といい,夏には氷水にひたして食べることもあるので〈すいとん〉とも呼ぶと記しているが,これは中国宋代に行われていた水団とまったく同じものであった。この砂糖入りだんごのきんとんは,江戸中期からはもち米の粉でつくってでき上りにきな粉をまぶし,あるいは粉をクチナシで黄に染めてつくったりしたが,やがて砂糖のかわりにアズキあんを包んだだんごにし,その上にまたあんをまぶす形式のものになり,さらに変化して現在の菓子のきんとんになった。ところが,《料理物語》(1697)にはまったく別系統のきんとんが記載されている。それはケシやサンショウをすり混ぜたくず粉のだんごをみそ汁仕立てにするというもので,料理法もちがえば,手づかみで食べられるものでもなかった。このきんとんはあまり行われなかったとみえて,その後ふっつりと姿を消してしまうが,おそらく唐菓子の餛飩(こんとん)あたりに起源をもつもので,いまも各地で行われている〈ほうとう〉やうどんに吸収されたものであろう。さて,現在きんとんといえばまず正月料理などに使うそれを指す。しかし,このきんとんは江戸時代の文献にはまず見られず,おそらく明治以後の考案になるもので,きんとんを称するものとしては最も新参ということになる。
執筆者:鈴木 晋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…しかし,どうやら砂糖を包みこんだ葛(くず)粉のだんごではなかったかと思われる。それは伊勢貞丈が砂糖入り粟だんごである〈きんとん〉を,ときに〈すいとん〉と呼ぶとしていること,《北野社家日記》を見ると折りびつに入れて贈物にしていること,つまり汁料理ではなかったこと,などの理由による。そして江戸初期の《料理物語》では,葛粉をこねて短冊形に切り,みそ汁で煮たものになっている。…
…いわゆる上生菓子を代表するもので,意匠をこらし,風雅な菓銘をつけて茶席にも多く用いられる。練切りに似たものに,こなし,きんとんがある。こなしは白あんに小麦粉などを混ぜて蒸し,砂糖をもみまぜたもので可塑性があり,いろいろに着色して使用する。…
※「金団」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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