蒸菓子の一種。中国で古くからつくられていた蒸餅(じようへい)の一種で,小麦粉をこねて皮とし,肉や野菜のあんを包んで蒸すものであった。中国でマントウというが,日本では〈頭〉を唐・宋音で読んで〈まんじゅう〉と呼んできた。諸葛孔明(しよかつこうめい)が羊や豚の肉を小麦粉の皮に包んで人頭に模し,人身犠牲にかえて蛮神を祭ったことに始まるという伝説が流布されており,蛮人の首にかたどったので〈蛮頭〉といい,それがなまって〈饅頭〉になったとされる。これは宋の高承の《事物紀原》などによるものだが,3世紀後半の晋代すでに〈曼頭〉の名で春の祭りに用いる風俗があったことからして,3世紀前半の孔明より古く行われていたことは明らかだと,北静盧(きたせいろ)(1848没)や青木正児(1964没)はいっている。曼頭の〈曼〉は,きめが細かくつややかなことで,蒸し上がった皮の感じから曼頭の名が起こったと考えられ,のちに食品のゆえをもって饅頭と書かれるようになった。
日本のまんじゅうは中国から帰化した林浄因(りんじよういん)に始まる。浄因は宋の高名な文人林和靖の子孫で,1349年に中国留学から帰朝した禅僧竜山徳見(りゆうざんとくけん)に伴われて来日,塩瀬姓を名のって奈良に住み,まんじゅうを製して業とした。その子孫には《饅頭屋本節用集》の刊行者とされる饅頭屋宗二(そうじ)(1498-1581)がいる。浄因の来日後20年ほどの時期にできた《新札往来》《遊学往来》などには,〈饅頭〉〈砂糖饅頭〉の2種の名が見え,《七十一番職人歌合》に登場するまんじゅう売りは〈砂糖饅頭〉と〈菜(さい)饅頭〉を売っている。砂糖饅頭は,輸入量が少なく高価だった砂糖を使ったための特別な名であり,菜饅頭は野菜を煮てあんにしたものと思われるが,単に〈饅頭〉と呼んだものが菜饅頭であったかどうかははっきりしない。ただし,江戸初期の《醒睡笑(せいすいしよう)》にはただのまんじゅうは〈小豆(あずき)ばかり入れて〉とされており,小豆の塩あんを入れたものだったようである。室町時代,まんじゅうはひじょうに愛好されたようで,狂言に〈てんじんとも申(もうし),又饅頭とも申て〉とあるように点心の称を独占するほどであった。また式三献(しきさんごん)(本膳料理)の二献目には,汁を添えて出されるのが例ともされていた。
現在のようなまんじゅうの普及が確認できるのは《雍州府志》(1682)からのことで,同書によると当時の京都には浄因の後裔(こうえい)の烏丸の塩瀬,同じく帰化人を祖とする一条の虎屋,そのほかの店が競ってまんじゅうをつくっており,それらはいずれも砂糖を用いた小豆あんを入れるとしている。江戸ではほぼ同じころ,日本橋の塩瀬や本町の桔梗(ききよう)屋のものが知られ,また浅草待乳山の米(よね)まんじゅうが評判であった。米まんじゅうは同所の茶店鶴屋の〈よね〉という娘がつくったものとも,米の粉を使ったための名だともいう。大坂では高麗橋三丁目の虎屋のものが美味の名をうたわれた。たいへんな人気で,贈答用に杉原紙に刷ったまんじゅう切手もおびただしく売れ,天保(1830-44)末年ころ経営が悪化した時期には市内いたるところに〈とら屋切手あり〉のはり札が見られたという。江戸時代にはいろいろなまんじゅうがつくられたが,主流は小麦粉を甘酒で練って発酵させた皮を用いるもの,つまり酒(さか)まんじゅうと呼ぶ類であった。またしんこ(糝粉)にヤマノイモを加えて皮にする薯蕷(しよよ)まんじゅう,その皮にそば粉を加えたそばまんじゅうもあった。関西では薯蕷まんじゅうをなまって上用(じようよう)まんじゅう(単に上用とも)と呼び,関東ではそば粉を使わぬ薯蕷まんじゅうをもそばまんじゅうと呼んだ。ほかに,蒸し上げたものの皮をむいて商品とするおぼろまんじゅう,葛粉(くずこ)を練ってあんを包んで蒸す葛まんじゅうなどがあり,唐(とう)まんじゅう,栗まんじゅうなど焼菓子でまんじゅうと呼ばれるものもできた。
執筆者:鈴木 晋一
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…《異制庭訓往来》をはじめ各種の古往来は南北朝から室町時代へかけての撰述とされるが,そこには点心として各種の〈羹(かん)〉〈麵(めん)類〉〈粥〉〈饅頭(まんじゆう)〉などが列挙されている。また,狂言《饅頭》ではまんじゅう売をして田舎大名に〈まんぢう共申,てんぢんとも申し,上つ方の御衆も参るものでござる〉といわせており,これらのことは点心という語の大衆化の度合を示すと同時に,点心の代表的食物として〈饅頭〉が挙げられているのは興味深い。また,《看聞御記》《康富記》などの貴族の日記にも点心の語が現れ,寺院社会ばかりでなく在俗社会にも点心の語は日常化していった状態がうかがわれる。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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