担子菌類に属する銹病菌(銹菌ともいう)が植物に寄生して生ずる病害の総称。葉に生ずる鉄さび様の胞子塊から本病の呼名がある。銹病はきわめて多種の植物に認められるが,1種の菌の寄主範囲は狭く,寄生性分化の進んだ菌である。コムギ赤銹病菌はコムギを侵すことができるが,オオムギに寄生せず,またオオムギ小(こ)銹病菌はコムギには寄生性をもたない。ムギ類の銹病菌は種内の寄生性分化も著しく,レース(特別な系統)の研究にかっこうの材料を提供してきた。銹病菌はまた中間寄主をもち,寄主輪廻を行う。コムギ赤銹病菌はアキカラマツ(または近縁のカラマツソウ属植物)を中間寄主とする。コムギ葉上にできる鉄さび状の粉はこの菌の夏胞子の塊で,やがてコムギの葉が成熟すると冬胞子をつくる。黒く葉に埋もれて見えるのが冬胞子堆である。冬胞子は一定の休眠期を過ぎると発芽して小生子をつくるが,小生子はもはやコムギを侵すことができないで,アキカラマツの葉に銹柄子殻を形成し,中に銹柄胞子をつくる。また葉の裏に銹子腔をつくって多数の銹胞子を入れる。銹胞子はアキカラマツを侵すことができないでコムギの葉に侵入する。こうしてコムギ赤銹病菌の世代が繰り返される。ただ,夏胞子はコムギに感染性をもっているので,機会と条件が整えば夏胞子により何回もコムギに銹病を起こさせることが可能である。ナシ赤星病も銹病の一種である。この銹病菌の中間寄主はビャクシン,カイヅカイブキである。ナシの上で銹柄胞子,銹胞子がつくられ,中間寄主の上では冬胞子が形成される。コムギ赤銹病では中間寄主の上で銹胞子,銹柄胞子がつくられ,ナシ赤星病では冬胞子が形成される。このように中間寄主の呼称は,菌の生活史上の段階でいうのではなく,輪廻する植物のうち人間生活への利用度の小さい植物をいう場合が多い。銹病菌は,コムギ赤銹病菌のように生活史の中で5種の胞子をつくるが,属,種によってはその一部を欠くものまたは未発見のものも多い。ナシ赤星病菌では夏胞子が不明であり,オオバコの銹病菌では夏,冬胞子とも不明である。コムギ,オオムギ黄銹病菌ではまだ中間寄主が知られていない。前述のように,銹病は葉のさび様の胞子塊が特徴であるが,中には変わった病状を伴うものがある。マツのこぶ病では幹が丸くふくれ,アオモリトドマツのてんぐ巣病では細い枝が密生する。銹病防除には一般に硫黄剤が有効であるが,中間寄主の撲滅も重要な課題で,ナシ園周囲約1kmのビャクシン類栽植を規制する条例をつくっている市がある。
執筆者:寺中 理明
植物に寄生する菌類の一群で,世界中に分布し約5000種が知られている。分類学上は担子菌類に含まれるが,通常みられるキノコなどの担子菌とは異種寄生性とか五つの異なった胞子世代をもつことなどの顕著な特徴で区別される。絶対寄生菌といわれ,人工培地上で発育できないといわれたが,近年になって培養に成功(9種)している。
執筆者:椿 啓介
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