鋳鉄鋳鋼(読み)ちゅうてつちゅうこう

改訂新版 世界大百科事典 「鋳鉄鋳鋼」の意味・わかりやすい解説

鋳鉄・鋳鋼 (ちゅうてつちゅうこう)

鋳鉄cast ironとは銑鋳物(ずく鋳物)用の銑鉄または銑鋳物そのものをいう。炭素3.0~3.6%,ケイ素1~2%,マンガン0.5~1.0%,リン0.3~1.0%,硫黄0.06~0.1%を含む鉄合金で,鋳造しやすく,また切削加工しやすい材料である。炭素は素地のパーライトセメンタイトの構成要素以外に遊離黒鉛として存在する。鋳鉄の組織は急冷するとセメンタイトが大量析出して,顕微鏡組織が白くなるので白銑と呼ばれる状態になるが,冷却速度が小さくなるとセメンタイトが黒鉛と鉄に分解して室温ではフェライトと黒鉛の状態となる。この状態では破面の明度が低下して灰色になるので,ねずみ鋳鉄という。黒鉛は片状に析出しており,材料強度はばらつきが大きく衝撃値はきわめて低い。この鋳鉄に含まれる酸素の活量をマグネシウムなどの脱酸材を用いて下げると,黒鉛が球状に析出し,材料強度のばらつきがなくなり,延性が生じてくる。これを球状化黒鉛鋳鉄という。冷却速度などの熱処理条件を変えることにより,組織をパーライトと黒鉛にして強度を上昇させることもできる。析出している炭素は,振動を吸収するため工作機械の床材などに使用される。原料としては,鋼より一けた以上不純物の許容量が大きく,それだけに安価であり,かつ溶湯粘性が低いので,たとえば家庭用だるまストーブのような比較的薄肉の鋳造品を簡単な設備で製作することが可能である。なお鋳鉄には,炭素量を2.0~2.5%に下げ冷却によって炭素をセメンタイトとして析出させ,その後微粉状の酸化鉄に包んで長時間900~1000℃前後で熱処理を施して脱炭させ,延性に富む材料にした可鍛鋳鉄クロムを添加して耐熱性を付与した耐熱鋳鉄ニッケルを添加して耐食性を改良した特殊鋳鉄がある。熱間圧延ロールにはニッケルを2%以上含むニッケルグレン鋳鉄,ニッケルチルド鋳鉄の特殊鋳鉄がよく用いられる。グレンとは炭化物とともに黒鉛が析出しているまだら鋳鉄とも呼ばれる組織の状態で,チルドとは炭化物の状態に抑えられている状態をいう。

 鋳鋼cast steelとは機械構造用炭素鋼やステンレス鋼などの高合金鋼を鋳造して製造した部材や部品をいう。塑性加工や溶接などによっては製造できない大型部材や,形状が複雑で鍛造ではつくることができず,強さの点では鋳鉄が使えない部品がつくられる。部品によっては部分的に表面浸炭窒化処理や,表面焼入れによる硬化処理を施すことがある。鋼は銑鉄に比べて溶融点が高く,溶湯の粘性も大きいので,高度の技術を必要とする。また高合金鋼には熱間塑性加工や溶接が困難な材料があり,これらは鋳造して部品をつくる。精度が要求されることも多く,この場合には精密鋳造法のロストワックス法などの手法が用いられる。
鋳造
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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