フェライト(読み)ふぇらいと(英語表記)ferrite

翻訳|ferrite

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フェライト」の意味・わかりやすい解説

フェライト
ふぇらいと
ferrite

(1)3価の鉄の酸化物(Fe2O3)と二価金属の酸化物(FeO, CoO, ZnO, BaOなど)との複合酸化物で、磁性材料に使用されている。砂鉄の主成分のマグネタイト(Fe3O4)はFe2O3とFeOよりなるフェライトである。

 フェライトの代表的な結晶構造はスピネル型であって、酸素イオンが面心立方晶の結晶格子を構成し、金属イオンは4個の酸素イオンに囲まれた四面体位置か、または6個の酸素イオンに囲まれた八面体位置に配列する。これらの金属イオンの種類と組成を調整することによって、フェライトは多種多様な磁気特性を示す。しかも安価であるために、マグネット磁気テープなどに大量に利用されている。

 フェライトを製造するには、まず、酸化物または炭酸塩の混合物を高温で焼成し、細かに粉砕してフェライト粉末をつくる。これを結合剤と混ぜて、ビニル・テープに塗布したものが磁気テープである。また、粉末をプレスで圧縮成型して高温で焼結し、磁化するとマグネットが得られる。

 フェライトの開発は1932年(昭和7、特許公告)東京工業大学の加藤与五郎と武井武OP磁石(Fe2O3とCoOとのフェライト)を発明したことが端緒となり、それ以後、各国において組成制御による特性向上が行われて、各種のフェライトに発展した。

(2)体心立方晶の鉄をα(アルファ)鉄、またはフェライトという。これを910℃以上の温度に加熱すると、結晶構造が面心立方晶に変化して、γ(ガンマ)鉄(オーステナイト)となる。鉄鋼材料は鉄を基本素材として、これに炭素クロムニッケルなどを合金させて、目的に応じた性能を示すように調製されている。添加元素があまり多量でない鉄鋼材料は、α鉄すなわちフェライトを基質(マトリックス)として、その中に粒状または板状の炭化物が分布したような組織に調整される。この種の鋼をフェライト鋼と総称する。これに対して、ニッケルやクロムを多量添加して、面心立方晶のオーステナイトが主体となるように調整した鋼をオーステナイト鋼という。

[西沢泰二]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フェライト」の意味・わかりやすい解説

フェライト
ferrite

この語には次の両様の意味がある。 (1) 低温で安定な鉄の同素体α鉄およびその固溶体。純粋のα鉄は軟らかく靭性があるが,固溶体では硬化する。体心立方晶で純鉄では 911℃以上で面心立方のγ鉄 (オーステナイト ) に同素変態する。鋼の合金元素にはフェライト領域を拡大するものとオーステナイト領域を拡大するものがあり,前者をフェライト生成元素といってタングステン,クロム,ケイ素が代表的な例である。炭素鋼では地鉄フェライトは最大 0.02%しか炭素を固溶しない。

(2) 金属Mの亜鉄酸塩 MO・γFe2O3 。 γFe2O3 は鉄錆や赤鉄鉱の αFe2O3 の強磁性同素体で,上記のMが Feであれば磁鉄鉱 Fe3O4 となる。Mは人工的にマンガン,コバルト,ニッケル,銅,亜鉛,マグネシウム,バリウム,カドミウムなどまたはその混合物で置換したものがつくられ,マンガンフェライト,コバルトフェライトなどと呼ばれる。強力な永久磁石や高透磁率合金として,高周波用磁心,コンピュータの記憶素子用材料など,電子工業に非常に多く用いられる (→酸化物磁石 ) 。

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