鋳鉄(読み)チュウテツ(その他表記)cast iron

翻訳|cast iron

デジタル大辞泉 「鋳鉄」の意味・読み・例文・類語

ちゅう‐てつ〔チウ‐〕【鋳鉄】

炭素を2.0~4.5パーセント程度ふくむ鋳物用の鉄。機械加工が容易であるが、衝撃力に弱い。普通鋳鉄・高級鋳鉄・特殊鋳鉄・可鍛鋳鉄などに分類される。いてつ。
[類語]くろがね鉄材鉄分鋼鉄鉄鋼こうはがねスチールステンレス銑鉄屑鉄砂鉄

い‐てつ【鋳鉄】

ちゅうてつ(鋳鉄)

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精選版 日本国語大辞典 「鋳鉄」の意味・読み・例文・類語

ちゅう‐てつチウ‥【鋳鉄】

  1. 〘 名詞 〙 鋳物に用いられる鉄。一般に炭素二・五~四パーセント、珪素一~二・五パーセント、マンガン〇・五~一パーセント程度を含む鉄。組織中の炭素の状態と破面の色によって、ねずみ鋳鉄白鋳鉄・まだら鋳鉄などに分けられる。硬度が高くて脆い。
    1. [初出の実例]「但し鋳鉄を以て二箇の閣道(かけはし)を造り」(出典:西洋聞見録(1869‐71)〈村田文夫〉後)

い‐てつ【鋳鉄】

  1. 〘 名詞 〙 鋳物用の鉄。また、鋳物にした鉄製品。ちゅうてつ。
    1. [初出の実例]「家宅の屋根を作るに、鋳鉄(イテツ)を用ゆるものあり」(出典:西洋家作雛形(1872)〈村田文夫・<著者>山田貢一郎訳〉五)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鋳鉄」の意味・わかりやすい解説

鋳鉄
ちゅうてつ
cast iron

鋳物用に使われる高炭素の鉄。現代は鉄の時代といわれ、構造物や機械の基礎材料として広く用いられている。この鉄は鋼(はがね)と鋳鉄とに大別され、前者は炭素含有量が2%以下(ほとんどの鋼は1%以下)で圧延線引きなどの塑性加工に適するが、後者は炭素含有量が2%以上(ほとんどの鋳鉄は3%以上)で溶融点が低く、鋳型内での流動も容易で鋳物用金属として広く用いられる。鋳物は鋳鉄のほかに鋼や銅合金軽合金によってもつくられるが、鋳物全体のうち鋳鉄製のものが約80%を占める。

 鋳鉄は炭素のほかにケイ素を1~2%含むが、ケイ素が多いと炭素が黒鉛の結晶として鋳鉄の組織中に現れる。その形は薄片状を呈しているので、鋳鉄はここから折れやすく、鋼に比べてもろい欠点がある。また折れ口に現れる黒鉛の結晶がねずみ色を呈するので、このような鋳鉄をねずみ鋳鉄という。また機械的性質が鋼ほど優れていないので「ずく鋳物」などの現場用語も用いられる。

 鋳鉄の機械的性質を改良するために炭素量を減らして黒鉛結晶の量や大きさを減少させたものを高級鋳鉄あるいは強靭(きょうじん)鋳鉄という。また、ケイ素量を減らして黒鉛結晶のかわりに鉄と炭素との化合物であるセメンタイトFe3C結晶を生じさせ、その後これを焼鈍して塊状の黒鉛結晶にして機械的性質を向上させたものを可鍛鋳鉄という。さらにマグネシウムあるいはセリウムを少量添加してから鋳型に鋳造して凝固させると、黒鉛結晶が球形に現れて機械的性質は格段に向上し鋼の性質に近くなる。これは球状黒鉛鋳鉄とよばれ、水道用鋳鉄管や自動車のクランクシャフトその他の強度部材に広く使われている。

 前述の薄片状の黒鉛結晶は機械的性質に関しては弱点となっているが、一方、振動を吸収したり、熱伝導を促進したり、潤滑油を含浸して摺動(しゅうどう)部分の耐摩耗性を向上したりするなどの工学的に優れた性質を鋳鉄に与えている。

 ケイ素を減らしたりクロムを増したりすると、黒鉛のかわりにセメンタイトを生じて非常に硬い鋳鉄が得られる。破面が白いので白(はく)鋳鉄とよばれ、耐土砂摩耗材料などに用いられる。そのほか、ニッケル、クロム、モリブデン、ケイ素などをとくに加えて耐腐食、耐高温、耐酸化などの性質を与えた特殊鋳鉄も数多くあり、歴史的にも鋳鉄は古くから人類に親しまれた材料である。

[井川克也]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鋳鉄」の意味・わかりやすい解説

鋳鉄
ちゅうてつ
cast iron

鋳物用鉄で,通常炭素 C3~5%,ケイ素 Si1.4~2.5%,マンガン Mn0.3~2.0%,ほかにリン,硫黄などの不純物を含む。銑鉄,屑鉄をキュポラ,アーク炉などで組成を調整し溶製する。展延性は悪いが,融点が低く流動性がよいので,鋳造に適する。成分のうちケイ素は炭素を遊離黒鉛化し,マンガンはこれをセメンタイト化する作用がある。普通品はだいたい Si/Mn比3~6で黒鉛が析出し,破面がねずみ色なので鼠鋳鉄また灰鋳鉄という。析出黒鉛は湾曲した特有の形で片状黒鉛といわれ,鋳造時に温度,冷却速度を入念に調整すると細かく分散析出して機械的性質のよい,いわゆる高級鋳鉄となる。C~2.5%,Si~0.7%とやや低いものは炭素がすべてセメンタイトとなり,破面が白く光るので白鋳鉄といわれ,可鍛鋳鉄の素材とされる。ねずみと白の中間品は両組織が混合するのでまだら鋳鉄という。しかしこの組織変化には冷却速度も大きく影響し,急冷すると白鋳鉄化しやすい。それでケイ素のやや低い鋳鉄を鋳込むとき,鋳面に冷やし金を当てて急冷するとその部分だけ硬い白鋳鉄となる。これをチルド鋳物という。また鋳鉄にセリウム,マグネシウムなどを少量添加して黒鉛が球状化し,著しく可鍛性を増したものを球状黒鉛鋳鉄という。その他材質の強度,耐食性,耐熱性などを増すためにニッケルやクロムなどの元素を添加した特殊鋳鉄もある。これら鋳鉄の用途はその性能に応じ非常に多種多様で,普通鋳鉄だけでも,鋳造性のよいことを利用した薄肉の風呂釜,鍋,ラジエータ,また電車の抵抗用グリッド,機械のベッド,ケース,シリンダや歯車などの部品,ピストンリング,土建用品,鋳型などがある。鋳鉄は摩耗に強いが,多少摩耗すると黒鉛が剥落して摩耗面にはさまり,よい潤滑作用をするので軸受としても用いられる。普通の鼠鋳鉄の引張り強さは 15~25 kg/mm2 ,ブリネル硬さ HB 200~250程度,品種によってはもう少し強いものもある。鋼を鋳型に鋳込んだものを鋳鋼品と呼び,炭素鋼,溶接構造用,低合金,ステンレス鋼,耐熱鋼,高マンガン鋼鋳鋼品などがある。

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百科事典マイペディア 「鋳鉄」の意味・わかりやすい解説

鋳鉄【ちゅうてつ】

銑(ずく)鋳物用の銑鉄または銑鋳物そのもの。一般に炭素3.0〜3.6%,ケイ素1〜2%,マンガン0.5〜1%,リン0.3〜1.0%,硫黄0.06〜0.1%を含む。ふつう,組織中に黒鉛が存在して破面がねずみ色のねずみ鋳鉄を用いる。これは鋳造性はよいが,もろいのが欠点。近年は可鍛鋳鉄球状黒鉛鋳鉄のような強靭(きょうじん)性をもたせたものも普及している。→鋳物
→関連項目降伏点鋳造鋳鉄管

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化学辞典 第2版 「鋳鉄」の解説

鋳鉄
チュウテツ
cast iron

約2質量% 以上のCを含み,主として鋳物として用いられる鉄合金.C 2.5~4.0質量% の範囲のものが多く,CのほかにMn,Si,Pなども少量含まれる.成形加工性に乏しく細い線や薄い板に加工することはできないが,溶融温度が純鉄や鋳鋼より300~400 ℃ も低いため,複雑な形や肉厚の薄い部分のある鋳物がつくりやすい.CがセメンタイトFe3Cの形で組織中に含まれていて破面が白色を呈するものを白鋳鉄,Cが凝固時に黒鉛の形で晶出し,破面がねずみ色を呈するものをねずみ鋳鉄または灰鋳鉄とよぶ.前者はいちじるしく硬くて耐摩耗性に富むためチルド鋳物として圧延ロールや製粉ロールなどのほか,熱処理をほどこして黒心可鍛鋳鉄を製造するための素材として用いられる.大部分の鋳鉄は後者に属し,黒鉛の大きさや形状によって普通鋳鉄,高級鋳鉄,球状黒鉛鋳鉄などに分けられ,この順に機械的性質は向上して球状黒鉛鋳鉄では引張強さが80 kg mm-2 を超えるものまで生産されている.いずれも切削加工は容易で,自動車,電車,鉛,各種機械などの部品や,直径の大きい水道管,ガス管など多方面に用いられている.

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普及版 字通 「鋳鉄」の読み・字形・画数・意味

【鋳鉄】ちゆうてつ

鉄を鋳る。

字通「鋳」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の鋳鉄の言及

【製鉄・製鋼】より

特殊鋼は合金鋼とふつう同意義に使われるが,その定義は国により異なる場合がある。 工業用鉄類はその炭素濃度により,0.007%以下を工業用純鉄,0.007~2.0%を鋼,2.0%以上を銑鉄,鋳鉄と大別している。ただし工業用純鉄と鋼との区別は主として焼入効果(高温の材料を水,油などに入れて急冷し,徐冷のときと異なる組織にする熱処理)の有無による。…

【鋳造】より

…材質と鋳物の種類によって,適切な鋳込み温度が定まっており,溶湯を測温して確かめる。ねずみ鋳鉄の場合には,湯面模様によって溶湯の温度を判断することも広く行われている。注湯する場合には,取鍋をクレーンで吊って運ぶか,小物では,湯汲みを使って行われる。…

【鋳鉄・鋳鋼】より

…鋳鉄cast ironとは銑鋳物(ずく鋳物)用の銑鉄または銑鋳物そのものをいう。炭素3.0~3.6%,ケイ素1~2%,マンガン0.5~1.0%,リン0.3~1.0%,硫黄0.06~0.1%を含む鉄合金で,鋳造しやすく,また切削加工しやすい材料である。…

【鉄】より

…【佐藤 進】
[中国,インド]
 古代では東洋,ことに中国で早くから製鉄技術が高い水準に達し,西洋をはるかに凌駕していたという説が最近J.ニーダムによって主張されている。その主要根拠は,中国ですでに紀元前から鋳鉄が製造されたことである。純鉄の融点は約1540℃,鉄の炭素含有量が増加すると融点が下がり炭素4%前後で約1200℃となる。…

【鉄器】より

…これらの自然鉄や隕鉄の利用は鉄塊に打撃を与えて加工する点で,石器製作と基本的に同じ原理に基づいており,製錬工程を経た鉄の利用とは本質的に異なる。 鉄器は,高温で溶解した銑鉄を鋳型に流し込んで作る鋳造品(鋳鉄)と,銑鉄を打ち鍛えて作る鍛造品(鍛鉄)とに分かれる。前者は炭素含有量が1.7%以上で硬度は高いがもろく,容器などに適し,後者は炭素含有量が1.7%以下の範囲にあって,適度な硬度と展性をもつために刃物に適する。…

※「鋳鉄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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