鑑識写真(読み)かんしきしゃしん

改訂新版 世界大百科事典 「鑑識写真」の意味・わかりやすい解説

鑑識写真 (かんしきしゃしん)

司法,美術,考古学等の鑑定に供する写真。鑑定には経験と知識に基づいた鋭い洞察と判断が必要とされているが,さらに科学的な鑑定による実証性,客観性を欠くことはできない。その手段として,現在では写真のさまざまな機能を応用する鑑識写真が多用されており,いずれの場合も写真の記録性が重要な与件であることが共通している。犯罪や事故,災害,あるいは考古学的な発掘現場では,それが生起した生の状況を現場で検証し,推論するのが最上であるが,長時間の現状保存は多くの場合事情が許さない。そこでとりあえず〈現場写真〉を撮影し,後に再度検討することになる。写真記録によれば,克明細密,客観的であり見落しがない。また照明法の選択,広角レンズの使用,拡大撮影などによりすぐれた特定資料も得られる。測量が必要な場合はあらかじめスケールの写し込み,あるいはレンズの光軸を水平や垂直にして撮影する配慮をしておけば,かなり精密な長さの測定が後に行える。〈遺留痕跡の鑑識〉は多くの場合現場検証とともに行われる。犯罪現場では指紋,掌紋,足跡,血痕飛沫,タバコの吸殻,毛髪などに調査の重点があるが,化学反応による鑑定のほかは写真が利用される。指紋,掌紋はアルミニウム粉末や硝酸銀溶液を塗布して撮影したり,透過光や斜光線が場合に応じて使用される。化石遺構の撮影には光線状態をうまく利用することが,細部や立体感を表すのに必要となる。〈物品鑑定〉は主に真贋や材質の鑑定を目的とし,不可視光線や分光写真,顕微鏡写真などが利用される。印影や筆跡銃弾同定には,写真資料により拡大鏡や投映機による比較検討が行われる。また押捺された印影の朱肉が不明瞭な場合,改竄かいざん)の跡の判定,紙幣や有価証券,絵画や古美術品の真贋鑑別には,赤外線写真や紫外線写真が利用される。仏像などの内部構造の調査にX線写真を使って技術鑑定や時代鑑定をすることも多い。内部の構成物質によっては中性子による透視写真が有効となる。
鑑定
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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