音階上の各音を示す名。ただし,音名と違って絶対音高をさすのではなく,各音の相対的な位置を表す。西洋音楽では,ド,レ,ミ,ファ,ソ,ラ,シの7シラブルsyllableが用いられる。その起源については,11世紀初頭にグィード・ダレッツォが,聖ヨハネ賛歌《ウト・クエアント・ラクシスUt queant laxis》の詩(8世紀ころ)の各小区分第1シラブルに,ハから1音ずつ上がってゆく6音(ut,re,mi,fa,sol,la)を当てはめたことに由来するといわれるが,異説もある。この6シラブルは当初,ハのほかト,ヘの各音上の6音音階(ヘクサコルド)の階名として使われていたが,やがてハ音上に固定されるようになった。16世紀末から17世紀中ごろにかけて,第7のシラブルsi(上記の賛歌の最終行〈Sancte Ioannes(聖ヨハネ)〉に由来する)が加えられ,イタリアではutが歌いやすいdoに変えられた。今日でもフランスではウト,レ,ミ,……,イタリアではド,レ,ミ,……がそのまま音名として使用されている。旋律に階名を当てはめて歌うことを階名唱法といい,ドを各調の主音として歌うことを〈移動ド唱法〉,ドレミ……をハ音上に固定させて事実上音名として歌うことを〈固定ド唱法〉という。
執筆者:土田 英三郎 西洋音楽以外の諸民族の音楽においても,音階の理論があって,その個々の名称が存在するときには,それを階名ということができる。中国では,五声(宮,商,角,徴(ち),羽)ないし七声(五声に変徴,変宮を加える)の個々の名称が階名に当たるものであったが,民間音楽ではその俗字譜の各譜字を階名のように用いることもある。インド,アラビアにも,それぞれ中国の七声に当たる名称があり,インドネシアにも階名に当たるものもあるが,実際には,略字や数字によって表すことが多い。
日本では,雅楽,声明において中国の五声ないし七声理論を輸入したが,それぞれ独自の理論を生み出しているので,特に角の位置に異同があり,七声としては,嬰という独自の用語を考案して,嬰商,嬰羽などを頻用する。ただし,実際の旋律はオクターブ構造をもたなくなってしまった場合もあって,これらの五声ないし七声の名称は単に理論上のものだけとなっている場合が多い。特に,中世以降に成立した種目ではこの傾向が著しく,音高または音程を表すそれぞれ独自の名称が存在するものの,それらがそのまま階名に相当するとはいえないことが多い。なお,日本のこれらの階名に相当する言葉は,旋律に当てはめて歌うには向かず,唱歌(しようが)ないし口三味線といった別な方法が用いられる。
→音階 →音名 →ソルフェージュ
執筆者:平野 健次
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音楽用語。音階中の各音を標準音との音程から決定した呼び名。音名と類似性、共通性をもつが、音名が絶対的音高を表すのに対し、階名は相対的音高を表す。
中国、日本の伝統音楽の階名は五声と七声である(別名五音(ごいん)、七音(しちいん)とも)。五声は宮(きゅう)・商(しょう)・角(かく)・徴(ち)・羽(う)。七声は宮・商・角・変徴(へんち)・徴・羽・変宮(へんきゅう)。中国理論では十二律の各音を宮とし(十二均)、一つの均(きん)に宮調・商調など音程関係の異なる音階が存在すると考えられた。中国民間には、七声を表すのに、唐の篳篥(ひちりき)譜に基づく「工尺譜」があり、合・四・一・上・尺・工・凡・六・五・乙の10字が使われる。この五声、七声は奈良時代に日本に到来し、雅楽や声明(しょうみょう)に用いられた。のち、平安後期の楽制改革により、これらの六調子と枝調子はすべて主音を宮とし、五声に変角や嬰羽(えいう)を用いて表すようになった。五声はその字画からウ(宮)・六(商)・ク(角)・山(徴)・=ヨ(羽)という略記法もある。そのほか日本では、謡曲のヨワ吟、ツヨ吟それぞれにある上・中・下・クリ・呂(りょ)などの名称も、階名とみなしうる。
西洋音楽の階名はド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シである。11世紀にグイード・ダレッツォが『聖ヨハネ讃歌(さんか)』の旋律に含まれるヘクサコルドの各音を、それに対応する歌詞のシラブルut、re、mi、fa、sol、laで表したことに始まり、その後17世紀に第7音siを加え、utをdoに読み替えて完成した。これは現在イタリア、フランスでは音名でもある。
階名は調性により変化しないため読譜に便利で、西洋ではこれによる唱法をソルミゼーションという。日本では五声、七声は階名唱法に用いず、これにかわる口承の手段として、トチチリチンなどという口三味線(くちじゃみせん)、雅楽の篳篥(ひちりき)、竜笛(りゅうてき)、能管の唱歌(しょうが)など、各楽器固有の唱法が数多くある。その他、インドに紀元前から存在するサンスクリット語の階名サ・リ・ガ・マ・パ・ダ・ニ(シャッジャ、リシャバ、ガンダーラ、マディヤマ、パンチャマ、ダイバタ、ニシャーダの七声の略)は、偶然にも西洋の階名と酷似し、サリガマ唱法がある。またインドネシアには、バリにドン・デング、スンダにダミナ式、ジャワにティティララス・クパティハンとよばれる五声または七声の階名がある。
[橋本曜子]
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