邦楽用語。三味線の旋律を口で唱えることをいうが,欺こうとして巧みに言いかける言葉の形容としても使われている。楽器の旋律を擬声音で歌って記憶する便利な方法として古くから行われた唱歌(しようが)が,雅楽から一節切(ひとよぎり)を経て,三味線に応用されたもの。〈チン・トン・シャン〉は三味線音楽の代名詞のようになっているが,チンは三の弦の勘所(かんどころ)を押さえた音,トンは二の弦の開放音,シャンは二と三の弦とを同時に弾いた音であり,そのほか,一と二の弦を押さえた音はツン,一,二弦同時のときはチャン,三の弦の開放がテン,撥(ばち)ですくう場合はラ行を用いる,といったぐあいに,弦の違いや押さえた音,放した音から,撥の使い方,ハジキという指使いまでが,口で唱えることによって,すぐにわかるようになっている。ただ,音の高さの不明確なところに欠点がある。
執筆者:舘野 善二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…地歌の公刊譜にしてもその集成書別に異なる記譜法であったが,現在では家庭式三味線譜といわれるものが普及し,長唄,小唄などでは文化譜といわれるものが普及している。これらの勘所譜とは別に,擬声的表現である口三味線で,その旋律を口でいうことも行われ,スクイなどの奏法と使用弦や開放弦であるかどうかなどが弁別できるため,心覚えとして記録されることもあり,不完全ながら一種の楽譜としても利用される。また長唄のある派では,小十郎譜といわれる,階名の数字譜を利用したものも用いられている。…
※「口三味線」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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