改訂新版 世界大百科事典 「離溶」の意味・わかりやすい解説
離溶 (りよう)
exsolution
一定の条件のもとで均一であった物質が,新しい条件におかれて化学組成の異なる領域に分離すること。鉱物学でよく用いられる用語。同様の現象は金属,無機物質でも起こるが,析出などと呼ばれる。一般に高温で晶出して均質であった鉱物が,冷却に伴い離溶して2相を生じ,その結果できる離溶組織は,離溶の機構と離溶相が成長する原子の拡散速度によるので,鉱物の冷却過程を推定するのに利用される。離溶を起こすA,B2成分系の相図においては,高温ではA,Bの固溶する領域が低温よりも広いのが普通である。一方の組成が温度低下の途中で相転移を起こすものもよくある。ある固相から別の固相が析出する場合,両相が一定の結晶学的な面を共有して,平板状あるいは棒状の析出物をつくることが多い。高温相がある温度で2相に分解する場合は境界線の複雑な組織をつくる。
天然においてよく離溶の観察される鉱物には次のようなものがある。鉄ニッケル隕石のNiに富むテーナイト相中にFeに富むカマサイトが板状に離溶した組織は,ウィドマンシュテッテン模様として有名である。この組織は隕石の母天体内部でのゆっくりした冷却のみで形成されるものである。輝石,とくにCa,Fe,Mgよりなるピジョン輝石,オージャイト,斜方輝石中の離溶組織,各種角セン(閃)石,K,Na,Caを含むアルカリ長石,斜長石中の離溶も火成岩,変成岩中のものによく観察される。酸化鉱物のルチル中の赤鉄鉱の析出,FeとTiを含むウルボスピネル中のチタン鉄鉱あるいは磁鉄鉱の析出,硫化鉱物のキューバ鉱中の黄銅鉱の析出などがある。温度変化だけでなく圧力変化による離溶もある。
執筆者:武田 弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報