難波和彦(読み)なんばかずひこ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「難波和彦」の意味・わかりやすい解説

難波和彦
なんばかずひこ
(1947― )

建築家。大阪府生まれ。丹下健三とル・コルビュジエに感銘を受け、建築家の道を選ぶ。1969年(昭和44)、東京大学工学部建築学科卒業。1974年、同大学院博士課程修了。

 大学院では池辺陽(いけべきよし)に師事し、そのシステマティックな近代的思考に影響を受ける。この頃、石井和紘(かずひろ)とともに、個性豊かな色彩直島(なおしま)町立幼児学園(1972、香川県)や54の窓/増谷病院(1972、香川県)、そして直島町民体育館(1976、香川県)を共同設計した。1977年、建築事務所界(かい)工作舎設立。

 東京大学、早稲田大学、東京工業大学などで教鞭をとり、2000年(平成12)より大阪市立大学教授。

 難波はテクノロジーに深い関心をもち、論理的な設計を特徴とするモダニストの建築家である。例えば1985年のオフィスマシン(銀座三愛ビル、東京都)はメカニカルなガラスとメタルファサードをもつ。建築家クリストファー・アレグザンダーは建築デザインにかかわる共通認識を253の「パタン」として抽出し、この「パタン」を言語のように組み合わせて建築をより開かれたものにする「パタン・ランゲージ」の手法を開発したが、野地邸(1988)で難波はこの手法を応用して、設計に施主の家族を参加させた。

 1994年から始めた箱の家シリーズは、ローコストでありながら、高性能の住宅を追求しており、7年間で50戸以上が完成した。箱の家-1(1995。吉岡賞、東京建築賞)は、全体がシンプルな箱型であり、大きな窓をもち、外部に対して開く。そして内部間仕切りを減らし、吹き抜けのある一室空間をつくり、はっきりした個室をもたない。難波は性能を落とさず、コストを抑えるために、寸法部材を標準化している。また、池辺の機能主義的小住宅「立体最小限住居」(1950)を意識し、寸法システムの工夫や一体的な吹き抜け空間などにより、その可能性を現代的に展開させた。町家に育った難波の個人的な経験も、箱の家に影響している。

 箱の家シリーズはその後さまざまな試みを経て、難波の代表的な作品となった。箱の家-7(1997)では北側斜線をクリアするためにボールトの屋根(アーチ状の屋根)を用い、箱の家-10(1997)では、標準化を考えはじめる。箱の家-21(1998)は箱の家-1を改良した5人家族のための住宅だが、難波はここで第一ステージを終え、室内環境の条件やリサイクルの問題を視野に入れて、次の段階を開始する。箱の家-23(1998)は、画家のアトリエを住宅と融合させた。そして平面の多様性だけではなく、構造システムのバリエーションも追求している。箱の家-33(1999)や箱の家-34(1999)は、集成材造を採用した。ほかには、鉄筋コンクリートのシリーズも試みているが、こうした難波の活動は、池辺が切り開いた建築と技術の問題を引き継いでいる。そしてそれは「箱の家」の発展形として手がけられた実験的なアルミエコハウス(1999)にも引き継がれる。住宅の構成要素をできるだけ部品化し、工場で生産された精度の高いアルミニウムの構成材を現場で組み立て、工期を短縮した住宅である。これは可能な限りエネルギーの効率を良くしており、エコロジカルな21世紀の住宅モデルとなることを目指した。

 そのほかの主な建築作品に柳井の町家(1981)、今井邸(1988)、EXマシン/伊豆別荘情報館(1990)、あじろの別荘1・2(1992)、真野邸(1993)、四つ木の家、南砂の家、松葉ビル(いずれも1994)、箱の家-3(1995)、箱の家-5(1996)、箱の家-9(1997)、箱の家-17(1998。東京建築士会住宅建築賞)など。著書に『建築的無意識』(1991)、『戦後モダニズム建築の極北 池辺陽試論』(1999)、『箱の家に住みたい』(2000)など。訳書にクリストファー・アレグザンダー、キャサリン・スレッサー著『まちづくりの新しい理論』A New Theory of Urban Design(1987)、クリス・ウィルキンソン著『スーパーシェッズ』Supersheds(1991)、アラン・J・ブルック、クリス・グレッグ著『コネクションズ』Connections(1992)、キャサリン・スレッサー著『エコテック』Eco-tech(1997)などがある。

[五十嵐太郎]

『『現代建築――空間と方法17 難波和彦』(1986・同朋社出版)』『クリストファー・アレグザンダー、キャサリン・スレッサー著、難波和彦監訳『まちづくりの新しい理論』(1989・鹿島出版会)』『『建築的無意識』(1991・住まいの図書館出版局)』『アラン・J・ブルック、クリス・グレッグ著、難波和彦・佐々木睦朗監訳『コネクションズ』(1994・鹿島出版会)』『クリス・ウィルキンソン著、難波和彦・佐々木睦朗監訳『スーパーシェッズ』(1995・鹿島出版会)』『『戦後モダニズム建築の極北 池辺陽試論』(1999・彰国社)』『キャサリン・スレッサー著、難波和彦監訳『エコテック』(1999・鹿島出版会)』『『箱の家に住みたい』(2000・王国社)』『『難波和彦「箱」の構築』(2001・TOTO出版)』

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