化学辞典 第2版 「電子なだれ」の解説
電子なだれ
デンシナダレ
electron avalanche
気体中に生じた自由電子が電位傾度の高い陽極に向かって加速と電離を繰り返し,急激にその数を増加する現象.放射線を検出する比例計数管や,ガイガー-ミュラー計数管の標準的な構造は,金属円筒の陰極,そのなかに封入されたアルゴンなどの気体,中心部に絶縁された細い金属線の陽極からなる.いま,放射線による一次イオン化により気体中に生じた1個の電子が,計数管のなかで何倍に増幅されるかを考えるとする.1個の一次電子は中心部のほうに加速されていくにつれ,しだいに運動のエネルギーを得て,気体の原子,分子に衝突して二次電子を生じる.中心線付近は電場も強くエネルギーの増加分も大きいので,この電離された電子がまた別な電離を行って電子を増やし,全体として心線付近で二次電子の数がなだれのように増加する.この現象が電子なだれである.二次電子の総数がn個に増えたとする.この二次の電子なだれによってつくられたn個の電子が気体,原子,分子を励起し,それがもとの安定な状態に戻るとき,放出される蛍光紫外線はほとんど計数管の外壁に吸収され,そのとき光電効果で電子を出すから,そのなかのある割合のものがふたたび計数管の電場で陽極の心線に向かい,加速される三次の光電子の数をnγとする.係数γは計数管の構造と気体の種類,圧力で定まる定数である.この三次の光電子はふたたび電子なだれをつくりn2γ個の電子になる.この第四次の電子なだれから第五次の光電子がつくられ,それが第六次の電子なだれn3γ 2をつくる.このような現象の繰り返しで,結局陽極に集まる電子の数は,一般には第(2k)次の電子なだれの数nkγk-1をk = 1→∞まで加えたもの,すなわち増幅率は,
M = nkγk-1
となる.いま,nγ < 1とすると,
である.まず,nγ≪1のときM ≒ nからはじまり,気体圧,電圧を調節してこの条件でM = 30~300程度にはたらかすのが比例計数管の状況である.次にnγ→1,ただし,nγ < 1に調節して非常に大きな増幅率Mを得たのが,ガイガー-ミュラー計数管である.1回の陽極加速だけでの電子なだれ増幅度nは陽極電圧で制御できるが,ガイガー-ミュラー計数管では陽極電圧が1000 V 程度の値でnがほぼ一定になるプラトーとよばれる領域があり,Mが安定する.さらに電圧をあげるとnγ > 1となり,連続放電を起こし計数管として使用不可能の状態になる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報